実は中国人だけでなく、開発途上国の国民が共通して持つ「劣等感」の裏返しなのだ。(1)


『AI時代の新・地政学』
宮家邦彦   新潮社   2018/9/13



<AI兵器>
AI時代を迎え、従来の地政学の常識は大きく書き換えられていく。戦略兵器となった「AI兵器」が核にとって代わり、熱い戦争ではなく「水面下の刺し合い」が主戦場となる可能性すらある。

・国際情勢分析を仕事とする身としては、現在起こりつつあるAI革命が伝統的な地政学的思考に如何なる影響を及ぼすのか、考え続けざるを得ない。

・伝統的地政学とは、ある民族や国家の地理的状況や歴史的経緯に着目し、当該国家・民族や関連地域への脅威およびその対処方法を考える学問だ。
 しかし、特定の国家が有する地理的・歴史的状況はそれぞれ大きく異なる。安全保障上の利害関係に関しては、全世界共通の傾向や法則などそもそも存在しない。

・でも恐れる必要はない。これは日本にとってピンチであると同時にチャンスでもある。世界の一流国として21世紀に生き残っていけるかもしれない。逆に、この大変革期に及んでも従来の不作為と受動的対応を繰り返せば、人口減少による二流国への転落が確実に待ち受けている。

<AI革命で激変する地政学>
・しかし、筆者が懸念するのは、日本での主たる関心事がAIのビジネスに与える影響であるのに対し、他の主要国では政治・軍事に与える影響についてもその研究に多大な人的・財政的資源が投入されていることだ。

<第5次中東戦争はもう始まっている>
・ところが、最近の情報通信処理・AI技術の飛躍的進展は、伝統的地政学が示す優位・劣位の環境を逆転させつつある。従来の強者が弱小集団に簡単に敗れる可能性が出てきたのだ。

・その典型例が、カタルに対するハッキングやレバノンのサイバー戦遂行能力の向上だ。例えば、昔ならレバノンからカタルに直接攻撃がなされる可能性はほぼゼロだった。が、今やレバノンのような人口の少ない貧乏国でも、サイバー空間では相当程度の攻撃力を得ている。なぜこんなことが可能になったのか。

・サイバー戦の世界では防衛よりも攻撃の方が遥かに安上がりである。

・特に、攻撃ソフトを扱う闇市場では入手コストが大幅に下落している。

・だから最近は、伝統的優勢国でも弱小国の攻撃を抑止できなくなっている。

・巷では「AI技術が経済やビジネスを変える」といった議論が盛んだが、AIには伝統的国際情勢分析の常識を破壊する力もある。

<AIが作る芸術には創造性はあるのか>
・結局、人間は進化したAIに支配されてしまうのか。そこで問題になるのは、AIが人間の能力を超える、いわゆる「シンギュラリティ」の概念だ。シンギュラリティが本当に現実となるか否かについても議論がある。

<AI革命はダークサイトを変えるか>
・ラッダイド運動から50余年後の1864年、ロンドンで第一インターナショナルが結成されたが、AI革命の結末は2つ、第1はダークサイドの拡大と過激化であり、第2はネオ社会主義の台頭の可能性だ。10年後の世界は大量の失業者の不満と怒りを誰が吸収するかにかかっている。

<AI革命と米中の地政学>
・AI技術による米中の力関係の変化は日本の安全保障に直結する重大問題だ。日本もAIの軍事応用を本気で始める必要がある。

<AI革命と米露の地政学>
・ロシアがAI分野で米国に勝つことはなさそうだが、ロシアが米国以上に、他国を実際に攻撃・占領することの政治戦略的意味を熟知していることだけは間違いない。米露競争は今後も緩むことなどあり得ない。

<AIと日韓、日朝、日中の地政学>
・問題は対中関係だ。既に触れた通り、中国のAI技術革新は目覚ましい。しかも、その多くは中国国内の社会管理や言論統制など独裁体制を維持するための活動に応用されている。個人のプライバシーを保護することなく、10億人以上ものビッグデータを活用できる中国が国内の管理統制体制を完成させれば、次のターゲットは潜在的敵性国家である日本となるだろう。

<AI革命は戦争をどう変えるのか>
・80年代にはIT革命が米ソ冷戦の終焉とソ連邦崩壊をもたらしたが、2020年代のAI革命は一体何を引き起こすのだろうか。

・しかし、民間主導で急速に発展しつつあるAI技術の軍事転用を条約などで規制することは、航空機や核兵器と同様、事実上不可能だろう。
 AI軍事技術のもう1つの問題点は、議論が兵器システムという戦術面の核心に集中していることだ。AI軍事技術の最大の問題は無人兵器運用の是非などではなく、それが国家軍事戦略を根本から変えてしまう可能性である。

<AI革命で変わる国家戦略論>
① AIが国家軍事戦略を変えるということは、AIが核兵器に代わり、「戦略兵器」になり得ることを意味する。戦略兵器とは、それだけで敵の戦意を喪失させ、自らの勝利を保証する究極兵器だ。
② AI兵器が敵の戦意を喪失させるとは、核兵器を使わずに、AI兵器だけで、敵国の「大量破壊」が可能になるということだろう。
③ 現在、核兵器は「使いにくい」兵器となりつつあるが、AI兵器は従来タブーだった「大量破壊」をより容易に、かつAIだけの判断で、実行し得るようになるのだ。
④ これを阻止するには、敵のAI軍事能力を減殺する「対AI軍事技術」を実用化していくしかない。

・そんな未来を議論している米国と比べ、日本は今もAIの軍事応用はタブー、「対AI軍事技術」の議論も皆無だ。これも背筋がぞっとする話ではないか。

<AIを悪魔にするのは人間である>
・当面は「AI」対「人間」の戦いにならない
・AI同士の戦いで優れたAIが勝利する
・AIを悪魔にするのは機械ではなく人間である

<AI革命時代に日本がすべきこと>
・(AI時代に日本が何を考え、何を実施すべきか。論点は4つある。)
・AI革命の影響・効果は経済分野だけではない
・AI革命は短期的に社会的格差拡大を助長する
・AIは軍事・安全保障分野でも革命を起こす
・今、重点投資すべきは「対AI軍事技術」である

・(では日本は何をすべきか。幾つか提言しておきたい。)
・戦後空想的平和主義からの脱却
・AI技術の軍事応用に関する研究者の養成
・AI技術の軍事応用に対する予算配分
・対AI兵器技術の重点的な研究・開発

<歴史の大局観を磨く>
<大局を読む直観力を養う方法>
・筆者が直観力に拘わるのには理由がある。
 今の日本は国家としての大戦略を欠いている。大戦略を立案するには、20~30年後の世界の国際政治・軍事戦略環境についての冷徹な見通し・シナリオを持つ必要がある。

・歴史の大局が発生するためには、それに至る一連の流れが必ずある。その流れを左右するのが歴史の「ドライバー」という概念だ。

<歴史の大局を左右する「ドライバー」とは>
・英国の戦略思考家は、国際情勢を左右する主な要因を「ドライバー」と呼んで重視するが、森羅万象の中からこれを見付けるのは意外に難しい。

・「ドライバー」「エピソード」「トリビア」に分類する癖をつける

・歴史を学び、常に過去と照合する癖をつける

・知ったかぶりは厳禁、「知的正直さ」こそが武器になる

・では現在の筆者は一体何を「ドライバー」と見るのか。キーワードは、欧州ではロシアのクリミア侵攻、中東では米軍のイラク撤退、東アジアでは中国公船の尖閣領海侵入だ。ロシアの侵攻でポスト冷戦期は終わり、米軍の撤退でイラクとシリアが破綻国家化し、中国が東シナ海の現状を変えた。いずれも地域情勢を左右する力があると思うからだ。

・あるファンドマネージャーが書いたこんな記事を見付けた。「過去の値動きを現在と照合すれば、大局を見失わず冷静に判断できる」――。なるほど、市場と歴史は似ているようだが、1つ違いがある。市場の大局が読めれば大富豪だが、歴史の大局を読めても大儲けはできない。

<「力の真空」理論と北朝鮮情勢>
・「力の真空」状態では、基本的に、最強の部外者が最大の分け前を得る。
・最大強者が動かない場合には、弱い部外者でも分け前に与れることがある。
・部外者が介入しない場合には、破綻国家となるか、新たな独裁者が生まれる。

ということだろう。この仮説を北朝鮮に当てはめると何が見えるのか。北朝鮮の「終りの始まり」は「力の真空」を暗示する。中国にとって核武装する北朝鮮はもはや緩衝地帯ではなく、むしろお荷物になりつつある。

<中国人とアラブ人の5つの共通点>
・カイロ、バクダッド、北京に合計8年住んだ体験で申し上げれば、両者のメンタリティは驚くほど似通っている。典型的な共通点を5つ挙げよう。
① 世界は自分を中心に回っていると考える
② 自分の家族・部族以外の他人は信用しない
③ 誇り高く、面子が潰れることを何よりも恐れる
アラブ人を怒らせる最も簡単な方法は公の場で相手を非難し、その面子を潰すことだが、この手法は中国でも十分通用する。但し、効果は覿面なので、あまり多用しない方が良い。
④ 外国からの援助は「感謝すべきもの」ではなく、「させてやるもの」
流石に今このようなケースは少なくなったが、2000年当時の北京国際空港は日本の経済協力により建設されたものだった。当時中国政府は「日本政府の支援に感謝する」なる一文を空港内に掲げることに強く抵抗していた。恐らくアラブ諸国ではこうしたメンタリティが今も残っているのではなかろうか。
⑤ 都合が悪くなると、自分はさておき、他人の「陰謀」に責任を転嫁する
アラブ人は米国とシオニストの「陰謀論」が大好きだが、中国も同様。何かといえば、「歴史問題」と「抗日愛国戦争勝利」を持ちだすあたりは、アラブの独裁政権とあまり変わらない。

<中国人と中東人はここが違う>
・まとめてしまえば、中東のアラブ人とアジアの中国人の共通点は、①自己中心、②部外者不信、③面子重視、④援助不感謝、⑤陰謀論好きとなる。だが、筆者がアラブ人気質と信じたこれらの性格は、実は中国人だけでなく、開発途上国の国民が共通して持つ「劣等感」の裏返しなのだ。

<ユダヤ陰謀論に陥るな>
・その典型例が「ワシントンやニューヨークなどにいる在米『ユダヤ人』の陰謀」論ではなかろうか。これらの陰謀論が如何に間違っているかを具体例と共に説明しておこう。
 2016年、全米ユダヤ委員会(AJC)の年次世界大会にパネリストの1人として招待された。
 AJCの活動を知る日本人は少ない。ウィキペディアの日本語版もあまり詳しくない。AJCは1906年設立の国際ユダヤ弁護団体だ。その監視対象は米国内の反ユダヤ主義に止まらず、国内及び世界での様々な差別や人権侵害行為に広がる。

・大会に参加して強く感じたことがある。第1は、世界の現状と将来に対する彼らの強い危機感だ。

・第2は、国際ユダヤ運動の多様性である。

・第3は、彼らの圧倒的な知的力量だ。差別というキーワードで彼らは世界各国の情勢を詳細に分析、議論している。この膨大な知的活動がAJCを支えている。これだけでも、今も巷に流布する「ユダヤ陰謀論」の空虚さが判るだろう。

・AJ(アメリカン・ジュー)は何よりもユダヤ人の故郷イスラエルの利益を優先する。米国市民でありながら、イスラエルに冷淡なオバマ政権には批判的だ。

<ユダヤ・ロビーとイスラエル・ロビー>
・2000年に当選した息子ブッシュ大統領はこれを一変させた。ユダヤ票の獲得が目的ではない。彼は親イスラエル傾向の強い3000万票以上とも言われる「キリスト教右派」「福音派(エヴァンジェリカル)」の票が欲しかったのだ。
 この傾向はトランプ政権で一層顕著になった。トランプ氏を熱烈に支持した層は「白人、男性、ブルーカラー、低学歴」だといわれるが、そこには多くの福音派キリスト教徒が含まれる。彼らは聖書を厳密に解釈し、「神は、シオンの地をアブラハムの子孫に永久の所有として与えられた」という教義を字義通り信じている。こうしたキリスト教シオニストにとって、エルサレムがイスラエルの首都であるのは教理上、当然だ。トランプ氏が内政上必要とするのは、こうした福音派キリスト教徒の支持なのである。

<「核の脅威」の本質>
・そもそも北朝鮮を如何に見るべきか。あれは国家などではなく、従業員2500万人以上の巨大な超ファミリー・ブラック企業だと考えた方が良さそうだ。

<北朝鮮「売り家と唐様で書く三代目」>
・社員たちはなぜかくも従順なのか、それがブラック企業の恐ろしさだ。オーナー一族の独裁は強大だから、抵抗すれば直ちに捨てられる。再就職は不可能だから服従するしかない。

・だが、この三代目の弱点は、致命的に世間知らずなことだ。思い上がった三代目、唐様ばかりが得意のようで、創業者とは月とスッポンである。

<対北朝鮮「宥和政策」は機能するのか>
・歴史の教訓は無慈悲である。強硬策を決断した敵対者に宥和政策は通用しないのだ。

<周辺の大国に翻弄される「朝鮮」外交>
・朝鮮は、常に強国に朝貢することで周辺の大国間のパワーバランスを維持し、自国の独立を守ろうとした。

・中華は、朝貢を続ける朝鮮を保護しつつ、恭順を示さない朝鮮に対しては常に厳しい態度を取った。

・朝鮮への地政学的脅威は女真や日本など非漢族の異民族であり、中華は必ずしも脅威ではなかった。

・朝鮮内部ではエリート間権力闘争が長く続いたが、対外政策はそうした政策論争の重要な要素だった。

<半島「力の真空」ゲームを各国は如何に戦うか>
・トランプ政権以降、米中露間競争は新段階に入る。
・北朝鮮で「終わりの始まり」「力の真空」が生じる。
・「真空」では最強部外者が最大の分け前を得る。
・最強部外者が不介入なら、次なる部外者に益する。
・部外者が不介入なら、破綻国家か新独裁者が生まれる。

<ちょっと変わっているが、素晴らしい国>
<外務省を辞めて分かった格差の拡大>
・この「官民」でまず大きく違うのはカネの出入り。当然と言われようが、官僚は国民の納税「義務」に支えられているのに対し、民間には物品の消費「義務」などないから、人々は自力で収入(売上)を確保せねばならない。

・長々と昔話をした理由は他でもない。10年以上前に感じたこの「官民」「民民」の格差は、今や解消するどころか、逆に一層拡大しているように思えるからだ。



『米中戦争 そのとき日本は』
渡部悦和  講談社  2016/11/16



<ライバルを必ず潰してきた米国>
・日米関係について言えば、1970~90年代における米国の経済面での最大のライバルは日本であった。ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授が1979年に書いた『ジャパン・アズ・ナンバーワン』は有名だが、多くの米国人が日本に脅威を感じていた。とくに日本経済の黄金期であった1980年代の米国人は日本を最大の経済的脅威として認識し、日本に対してさまざまな戦いを仕掛けてきた。その典型例が日米半導体戦争である。半導体分野で首位から転落した米国のなりふり構わぬ日本叩きと熾烈な巻き返しは米国の真骨頂であった。こうした米国の仕掛けが成功するとともに、日本の自滅(バブルを発生させてしまった諸政策と、バブル崩壊後の不適切な対処)も重なり、バブルを崩壊後の失われた20年を経て日本は米国のはるか後方に置いて行かれたのである。そして今や中国が米国にとって最も手強い国家となっている。

<スコアカード・5つの提言>
・ランド研究所では「紛争開始時の米軍の損害を減少させ、勝利を確実にする」ための、5つの提言を行っている。
●バランス・オブ・パワーの変化は米国に不利なトレンドではあるが、戦争は北京にとっても大きなリスクであることを明確に認識させるべきである。
●兵器調達の優先順位においては、基地の抗堪性(余剰と残存性)、高烈度紛争に最適なスタンドオフ・システムで残存性の高い戦闘機及び爆撃機、潜水艦戦と対潜水艦戦、強力な宇宙・対宇宙能力を優先すべきである。
●米国の太平洋軍事作戦計画策定においては、アジアの戦略的縦深(地理的な縦深性、日本などの同盟国が米国の緩衝地帯を形成することに伴う縦深性)を活用する。米軍がこうむる当初の打撃を吸収し最終目標に向かっての反撃を可能にする(積極拒否戦略)を考慮すべきである。その結果、中国近傍の地域を静的に防護することは難しくなるであろう。
●米国の政治・軍事関係者は、太平洋の島嶼諸国及び南東アジア南部の諸国とも連携しなければならない。これは、米国により大きな戦略的縦深と、米軍により多くの選択肢を提供することになる。
●米国は戦略的安定・エスカレーション問題において、中国に関与する努力を続けなければならない。

<スコアカードに関する筆者の評価>
<日本の安全保障に与える影響>
●本報告書には日本防衛に影響を与える記述が随所にあり、その記述を詳細に分析する必要がある。例えば、「嘉手納基地に対する比較的少数の弾道ミサイル攻撃により、紛争初期は緊要な数日間基地が閉鎖、より集中的な攻撃の場合は数週間の閉鎖になる可能性がある。米国の対抗手段により、その脅威を減少させることができる」などといった記述である。
 とくに台湾危機シナリオは日本防衛に直結する。台湾の紛争が在日米軍基地への攻撃などの形が我が国に波及すれば、日本有事になる。南西諸島の防衛をいかにすべきか、在日米軍基地を含む日本の防衛態勢をいかにすべきかを真剣に考える契機とすべきである。台湾や南シナ海の危機は日本の危機でもあるのだ。

●ランドの研究グループは、作戦構想としてのエア・シー・バトルを採用しているために、「アジアの戦略的縦深を活用し、米軍がこうむる当初の打撃を吸収し最終目標に向かっての反撃を可能にする「積極拒否戦略」を考慮すべきである。中国近傍の地域を静的に防護することは難しくなるであろう」と提言しているが、この提言は重要だ。要するにこれは、「危機当初は米空軍・海軍が中国軍の打撃を避けるために後方に退避し、反撃を準備してから攻勢に出る」という意味である。米国の同盟国である紛争当事国は米軍の反撃が開始されるまで中国軍の攻撃に耐えなければいけない—―「積極拒否戦略」にはそのような意味が込められている。
●我が国においても、ランド研究所のシミュレーションを上回る分析が必要であり、詳細かつ妥当な分析に基づく防衛力整備、防衛諸計画策定がなされていくことを期待する。

<キル・チェインとC4ISR能力>
・弾道ミサイルなど、長射程兵器の「キル・チェイン」と、それを可能とする指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察{C4ISR}の能力はきわめて重要である。キル・チェインとは、ほぼリアルタイムで目標を発見、捕捉、追跡、ターゲティング(目標指示)、交戦(射撃)の効果を判定する—―という、一連のプロセスを指す。

<東日本大震災時に軍事偵察を活発化させた中国・ロシア>
・筆者が最も恐れる最悪のシナリオは、同時に生起する複合事態である。2011年に発生した東日本大震災は複数の事態が同時に生起する複合事態であった。当時の自衛隊は、地震、津波、原子力発電所事故に同時に対処する必要に迫られた上、周辺諸国の情報偵察活動も続けなければならなかった。多くの日本人は知らない事実だが、当時、自衛隊が大震災対処で忙殺されている間に、その自衛隊の警戒態勢を試すかのように周辺諸国(とくに中国とロシア)が軍事偵察を活性化させた。その姿勢には強い憤りを感じたものだ。しかし、それが我が国周辺の厳しい安全保障環境であると改めて実感したことを思い出す。
 筆者が恐れる「同時に生起する複合事態」の一例は2020年に開催される東京オリンピック関連である。この大会に備えてテロやサイバー攻撃への対策が議論されているが、大会直前や開催中の首都直下地震の発生及び対処は考えられているだろうか。
 筆者がさらに恐れる同時複合事態は、首都直下地震(または南海トラフ大震災)の発生に連動した日本各地でのテロ活動、もしくは、尖閣諸島など日本領土の一部占領である。

<日中紛争シナリオ>
<各シナリオ共通の事態>
・いかなる日中紛争シナリオにおいても、非戦闘員ないしは特殊部隊による破壊活動は必ず発生すると覚悟すべきであろう。平時から中国軍や政府機関の工作員、そのシンパで日本で生活する中国人、中国人観光客が、沖縄をはじめとする在日米軍基地や自衛隊基地の周辺に入っていると想定すべきである。

<中国の準軍事組織による「尖閣諸島奪取作戦」>
・中国は常套作戦としてPOSOW(準軍事組織による作戦)を遂行し、米国の決定的な介入を避けながら、目的を達成しようと考える。準軍事組織による作戦の特徴は、①軍事組織である中国軍の直接攻撃はないが、中国軍は準軍事組織の背後に存在し、いつでも加勢できる状態にある。②非軍事組織または準軍事組織が作戦を実行する。例えば、軍事訓練を受け、ある程度の武装をした漁民(海上民兵)と漁船、海警局 の監視船などの準軍事組織が作戦を実施するのである。この準軍事組織による作戦は、南シナ海—―ベトナム、フィリピン、インドネシアに対して多用され、確実に成果をあげている作戦である。

・以上の推移で明らかなように、この作戦には軍事組織である中国海軍艦艇が直接的には参加しない。日本側から判断してこの事態は有事ではなく、平時における事態(日本政府の言うところのグレーゾーン事態)であり、海上自衛隊は手出しができない。尖閣諸島に上陸した漁民を装った海上民兵を排除するためには大量の警察官などの派遣が必要となる。法的根拠なく自衛官を派遣することはできないからである。
 中国の準軍事組織による作戦は、日米に対してきわめて効果的な作戦となるだろう。なんといっても日本の法的不備をついた作戦であり、自衛隊は手出しができない。
 一方、米国にとっても準軍事組織による作戦に対して米軍が対応することはできない。つまり、こうしたケースの場合は米軍の助けを期待することができないため、これらの事態の対処は当事国の日本が単独であたらなければならない。

<日米の機雷戦>
・日本はすでに、南西諸島沿いに太平洋に出ようとする中国の水上戦闘艦及び潜水艦に脅威を与える高性能の機雷を多数保有している。日本の洗練された機雷は、狭い海峡を通り抜けようとする艦艇・潜水艦を目標として製造されている。適切に敷設された機雷原は、第1列島線を超えて東方に向かう中国艦船の行動を遮断する。機雷は大量生産が比較的簡単で、高価な艦艇よりはるかに安価である。
 対潜戦と同じく、中国海軍は対機雷戦にも弱く、この弱点を衝くべきである。

<手足を縛りすぎる自己規制はやめにしよう>
・習近平首席の軍改革の目的は「戦って勝つ」軍隊の創設だった。戦う相手は日本であり、勝つ相手も日本である。戦って勝つためには手段を選ばない超限戦を実行する。超限戦では国際法も民主主義国家の倫理も無視する。こういう手強い相手が中国であることをまずは認識すべきである。
 これに対して日本の安全保障のキャッチフレーズは「専守防衛」だ。防衛白書によると、「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」。
 
<中国軍の航空・ミサイル攻撃に対する強靭性を高める>
・我が国の防衛の最大の課題は、中国軍の航空攻撃や大量のミサイル攻撃から生き残ることである。そのためには防空能力を高めること、築城による基地・駐屯地の抗堪化、装備品の分散・隠蔽・掩蔽、装備品の機動性の向上、被害を受けた際の迅速な復旧の措置による被害の回避が必要である。
 
・防空能力については、統合の防空能力を強化すべきである。そのためには、各自衛隊の防空装備品を統一運用するためのC41SRシステムが必要となる。さらに日米共同の防空能力の構築にも尽力すべきであろう。
 将来的には、電磁レールガン、高出力レーザー兵器、高出力マイクロ並兵器の開発を加速させ、中国軍のミサイルによる飽和攻撃にも対処できる態勢を構築すべきである。とくにレールガンは、中国軍の次期主要武器――高速飛翔体や各種ミサイル—―を無効化する可能性のあるゲーム・チェンジャーであり、その開発を重視すべきだ。

<強靭なC4ISRを構築する>
・ミサイルのキル・チェインを成立させるためにC4ISRが大切であることも繰り返し述べてきた。米軍も統合運用を深化させる過程で、異なる軍種のC4ISRシステムの連接に努めてきた。とくにグローバルに展開する武器を連接し、リアルタイム情報に基づいて迅速かつ効率的に火力打撃を実施するためには、強靭なC4ISRが不可欠である。

<継戦能力を保持する>
・最後に強調したいのが「継戦能力」である。予想される戦いは短くても数週間、数カ月間継続する。弾薬・ミサイル、燃料、予備部品などの備蓄は必須だ。形ばかりの防衛力整備ではなく、継戦能力の向上のために、より実際的な事業が不可欠なのだ。

<ランド研究所の「中国との戦争(考えられないことを考え抜く)」の論文>
・「米中戦争は、両国の経済を傷つけるが、中国経済が被る損害は破滅的で長く続き、その損害は、1年間続く戦争の場合、GDPの25%から35%の減少になる。一方、米国のGDPは5%から10%の減少になる。長期かつ厳しい戦争は、中国経済を弱体化して手に入れた経済発展を停止させ、広範囲な苦難と混乱を引き起こす」

・本書の目的も、米中戦争という最悪の事態を想定し、それに対処する態勢を日米が適切に構築することで、中国主導の戦争を抑止する点にある。

・いずれにせよ、日米中が関係する戦争(紛争)が実際に生起することを抑止しなければならない。平和を達成するためには戦争を知らなければならない。



『悪魔の情報戦略』  
  隠された「真実」を看破する戦略的視点
浜田和幸   ビジネス社   2004/4/1



<中国有人飛行成功の裏に隠された情報戦略>
・国民の平均年収が8万円でありながら、3000億円近い経費を投入した今回の打ち上げに対しては、内外から批判的な見方もあったが、ひとたび成功のニュースが流れるや中国人の間では「偉大な中国の科学力の勝利」といった歓迎ムードが広がった。

・中国共産党にとってはかってない規模での政治ショーを成功させたことになる。国内では貧富の差も広がり、教育や福祉、環境、人権などさまざまな分野で国民の不満が溜まっているところだったから、今回の宇宙ショーは、その国民の気持ちを高揚させ、共産党支配の未来に希望を抱かせる上で、極めて効果的だった。

<「2017年米中宇宙戦争勃発」のシナリオを描くアメリカ>
・なぜなら、中国の宇宙開発計画は将来の「宇宙戦争」を念頭に置いていることを、もっともよく理解しているのはアメリカに他ならないからである。ラムズウェルド国防長官の特別補佐官を務め、現在はノースロップ・グラマン・ミッション・システムズ副社長となっているリッチ・ハパー氏は「このままではあと20年以内にアメリカと中国は宇宙での戦争に突入する」との見通しを明らかにしているほど。実際、アメリカの国防総省では「2017年米中宇宙戦争勃発」とのシナリオに基づく模擬戦争演習を行っている。

<ライバル視する中国、誘い込むアメリカ>
・一方、中国の人民解放軍の幹部も、「科学技術の粋である宇宙戦争を戦える力を持たねば、我々はアメリカによってコントロールされる」と言う。それのみならず、「宇宙大戦争計画」と称して、やはり「アメリカとの最終戦争の舞台は宇宙になる」との見方を示しているのである。

・曰く、「中国は陸、海、空の領土保全に加え、これからは第4の領土である宇宙に目を向け、その開発に積極的に取り組むべきである。宇宙の資源をめぐる争奪戦での最大のライバルはアメリカとなるだろう。この戦いに勝利するため、我々は、必要な宇宙兵器の開発を早めねばならない」

<宇宙から選ばれし国家「中国」という情報操作>
・中国UFO調査協会では中国の宇宙開発を支援するための教育啓蒙活動に熱心に取り組んでいる。なぜなら、今回の友人宇宙飛行にも関わった北京航空航天大学の沈士団学長がこのUFO協会の名誉会長を務めるほど、中国では「飛碟」(UFO)や「外星人」(宇宙人)研究が政治的に認知されているからである。

<内部書類「対米全面戦争勝利戦略」の信憑性>
・このところ、北朝鮮の新聞やラジオは盛んに「アメリカの攻撃に対して大規模な反撃を準備しよう」という呼びかけを続けている。北朝鮮には100万を超える陸軍兵力に加え、470万の予備役もいる。数の上では世界第4位の軍事力と言うのがご自慢で「イラクの軟弱兵士と比べ、我々には高いモラルを維持しているので、徹底的にアメリカ軍を殲滅できる」と意気盛んな限りである。

<大地震は本当に起こる?>
<情報に対して未熟な日本>
・とてつもない大きな地震が来るかもしれない。中央防災会議では「東海地震はいつ発生してもおかしくない。東南海地震と同時発生の可能性もある。東南海、南海地震は今世紀前半の発生が懸念される」と発表している。

・地震学的に間違いないといわれているものの、根拠なき理由から、たとえ大地震が来ても自分だけは助かるという、信じる者は救われるような情報の価値とはまったく異なる次元で人は生きているところがある。

<脆弱な日本の情報機関>
・日本でも以前には「明石機関」や「陸軍中野学校」などで知られる諜報組織や情報機関と言うものがあった。ところが占領軍によって壊滅させられたのである。

・英米の諜報機関のような大組織によって世界中に張り巡らされているネットワークから上がってくる情報に基づいて政策を策定する、そういった情報サービス機関はない。

・日本版のCIAといわれる内調でさえ内実は国内情報分析で60人、海外の情報分析で80人の計120人体制なのである。例えば、日本に最も影響の大きいアメリカの情報分析にも4、5人でフォローしているという状況である。

・そこで、どういう対応をするかというと国家予算を使ってアメリカの法律事務所やコンサルタント会社と言ったビジネスの情報機関から定期的にワシントンやニューヨーク情報を買うのである。


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