イギリスには幽霊の出る場所が1万ヵ所もあるといい、ゴーストの秘密を探ろうという人たちが、温度計を手に歩きまわっている。気温が急に下がるのはゴーストが出現したサインだという。(1)


『オカルト伝説』 ナショナル ジオグラフィック別冊
人を魅了する世界の不思議な話
日経ナショナル ジオグラフィック社   2020/4/30



<羽のように軽く……人体浮揚>
・たとえば、釈迦は水の上に飛んだという記述が残っているし、ミサの間にいつも浮揚していた聖ヨセフは、死後、飛行の守護聖人として列世されている。もちろん、神々も自在に飛べると考えられていた。エジプト神話のホルス神は、鳥の羽を持った円盤という姿で描かれている。聖人たちが上っていく天界、そこには天使が住んでいる。天使には階層があり、その最高位にいるのは、神の御座の周りにいるセラフで、三対の翼を持っている。天使は人間が幸福であるかいつも気を配っていて、それが「守護天使」と呼ばれるゆえんだ。

<歩く家具、鳴り出すアコーディオン>
・空中に浮かぶことができたのは聖人や天使だけではない。行者や魔術師なども、やはり浮く力を持つといわれていた。19世紀のスコットランドの霊媒師、ダニエル・ダングラス・ヒュームは、ナポレオン3世やアンソニー・トロロープの前で、その能力を披露してみせた。浮いてみせただけでなく、手を触れずに家具を動かしたり、アコーディオンを空中で鳴らしてみせたりもした。このような物理的心霊現象を起こすことのできる霊媒師は多く、20世紀初頭のイタリア人霊媒師エウサピア・パラディーノなども、離れたところから家具を動かしたという。見物していたノーベル賞受賞者のピエール・キューリーも「これはまぎれもない事実だ。とても騙されているとは思えない」と言ったというのだ。だが、1900年代に起こなわれた研究では、部屋にはさまざまな仕掛けが施されていて、それがパラディーノの霊能力の正体だったと結論づけている。

<霊の予言>
・使徒言行録によれば、キリストの磔刑のあと、使徒たちはキリストを裏切ったユダの後任に神は誰を望んでいるか、くじ占いをして答えを探った。くじ占いとは符号やマークのついた棒や石を投げ、答えを見つけるというもの。その結果、ユスト・バルサバは負け、キリストの洗礼の時から行動を共にしていたマティアスが選ばれたのだった。

<世界の中心>
・一方、古代ギリシャ人は、デルフォイの神殿におもむき、神託を仰いだ。神殿はアテネ北西の山パルナッソスの中腹にあり、当時、そこが世界の中心であると信じられていた。
 人々は、国家や植民地の問題から個人的な問題まで、アポロンの巫女ピチアに相談した。

<ゴーストダンス>
・予言が悲劇を生んだ例もある。19世紀の終わり頃、アメリカ先住民パイユート族のウォジウォブという予言者が、トランス状態から目覚め、「自分たちの土地を取りもどす日は近い」と言った。さらに、神聖な衣服を身につけてゴーストダンスを踊り、瞑想すれば、白人が逃げて行く時期は早まると。

・このゴーストダンスを、戦いの準備ではないかと警戒していた連邦政府は、1890年、第七騎兵隊をサウスダコタ州のパインリッジ保留地に送り込んだ。緊張が一気に高まったのは、ウーンテッド・ニー川近くの野営地で、ラコタ・スー族が弾丸を通さないとされる「ゴーストシャツ」を着てダンスを始めたときだった。軍隊はキャンプを取り囲み、速射砲で狙いを定めた。いったん戦いが始まると、銃声が絶え間なく響き渡り、300人近くもいた大人や子どもが無差別に殺された。ゴーストダンスはもうラコタ族に踊られることはなくなったが、形を変え、今でもネイティブアメリカンの文化の中に残っている。

<ゴーストとポルターガイスト>
・ゴーストといえば出没自在で、わたしたちの周りをふわふわと浮遊しているイメージだ。しかし目撃したという人は多いが、その存在を示す科学的な証拠はいまだに見つかっていない。それでも、2012年の調査によると、45パーセントのアメリカ人がゴーストの存在を信じ、28パーセントが実際に目撃したが、気配を感じたことがあると言っている。

<10万人の眠るセントルイス第一墓地に幽霊が出るという噂が立ち、おもしろがって見に来る観光客が多い>
・ゴーストに会いたがる人たちはかなり昔からいた。イギリスには幽霊の出る場所が1万ヵ所もあるといい、ゴーストの秘密を探ろうという人たちが、温度計を手に歩きまわっている。気温が急に下がるのはゴーストが出現したサインだという。不思議な足音だけが聞こえてくる家もある。そのような場所から、またたくさんの物語が生まれてくるのだ。

<築110年のスタンリーホテルには何体ものゴーストが、夜な夜な廊下を歩き回っているという>
・1974年にスティーブン・キングが妻のタビサと泊まったロッキー山脈のスタンリーホテル。冬季閉鎖を目前に控えたこのホテルに泊まっていたのはキング夫妻だけ。このときの体験をもとに、スティーブンはホラー小説『シャイニング』(1977年)を書いたという。

・実際、スタンリーホテルの泊り客が、廊下をうろつくゴーストを見たという話は昔から絶えなかった。ゴーストに会ってみたいという客のために超常現象ツアーが組まれているほどだ。ツアーでは、ホテルの怪奇現象を紹介しつつ、ゴーストの世界へといざなってくれる。

・大きな音を立てて、人を脅かしてばかりいるゴーストのことをポルターガイストという。由来はドイツ語で、ポルターはノイズ、ガイストは魂のことを指す。このはた迷惑な魂たちは、映画『ポルターガイスト』(1982年)に描かれた通り、物を動かしたり、叩いたりして皆を怖がらせる。

・しかし、人々がポルターガイストについて語りだしたのは、とりわけ最近になってからのことだ。たいていは人の良いゴーストのほうが好まれ、何世代にもわたって語り継がれている幽霊話もある。ワシントン・アービングが書いた『スリーピー・ホロウの伝説』に出てくる首なし騎士の話などがその典型的な例だろう。また、人々はゴーストが出るという心霊サイトも大好きだ。

・ゴーストが出没する場所として有名な街もある。ニューオーリンズには第一墓地やラローリーマンションへ馬車で連れて行ってくれる。ラローリーマンションは、女主人デルフィーン・ラローリーが所有していた屋敷で、多くの奴隷が虐待されたり殺されたりした場所だ。シンガポールも、心霊サイトの多い都市で、中でも出現率の高さで群を抜くのが旧チャンギ病院だろう。

・ゴーストはまた、船上にも出現する。現在はカリフォルニア州のロングビーチに永久停泊しているクイーンメリー号には、「白いドレスの美女」や船の中で殺された船員などの霊が、大勢乗っているといわれている。ゴースト見学ツアーまであるそうだ。そして、決して港に戻ることのない船もある。フライング・ダッチマン号は永遠に航行するのろいをかけられた幽霊船だ。リヒャルト・ワーグナーのオペラ『さまよえるオランダ人』の中でも港に帰ることを許されず、英国詩人サミュエル・テイラー・コールリッジの『老水夫行』という作品でも海原をさまよっている。

<狼男>
・1764年、ジャンヌ・ブルという14才の少女がフランスのサン・テティエンス・ド・リュグダーレ村の近くで獣に襲われた。その頃のジェボーダン地方(現オクシタニー地域圏にある地域)で動物に襲われることはそれほど珍しいことではなかったが、1760年代半ばの犠牲者は100人以上に上り、少女もその中の一人だった。

・彼らは皆、喉元を食いちぎられ、頭をかみ砕かれた状態で発見された。相次ぐ惨劇に、ジェボーダン地方は大騒ぎになった。後ろ足で立ち、銃で撃たれても死なないどう猛な野獣が辺りをうろついているという噂が広まったのだ。大勢の有志がライフルや毒入りの餌を持って集まった。うまく仕留めれば、報酬が手に入るかもしれない。ハンターの一人、ジャン=バティスト・ブーランジェ・デュアメルの記録には、こう書いてある。「やつは、きっとライオンを父に持つモンスターだ。しかし母親のほうは見当がつかない」。討伐隊はそのモンスターを見つけることができなかったが、1765年には事件がピタリと止んだ。おそらくオオカミの群れが人を襲っていたのか、または外国人の見世物小屋から逃げ出したライオンだったのではないかと推測されているが、その正体は、いまだに謎のままである。

<人食いモンスター>
・たしかに当時のヨーロッパでオオカミは脅威だったが、人々がもっと恐れていたのは、人が変身して人食い動物に変わったもの、つまり狼男だった。誰かが殺されるような事件が起こると、決まって貧しく、選挙権も与えられていないような弱い立場の人々に疑いの目が向けられた。当時は、狼男に噛まれると噛まれた側も狼男になり、薬を飲んだり、魔法のマントや帯を身につけたりしても変身できると考えられていた。

・狼男の仕業とされていたが、実は人間による殺人事件だったというケースもある。ドールの狼男として有名な、16世紀のフランス人ジル・ガルニエの事件がそうだった。ガルニエは以前から軟膏を全身に塗って狼男に変身すると噂されていた。そして、「変身した」ガルニエは、実際に子どもを殺し、食べていた。ガルニエは、1573年1月18日に逮捕され、火あぶりの刑に処せられている。ただし、狼男だと疑われていた人々の大半は、ただの勘違いによるものか、珍しい病気が原因だったのだ。強烈な頭痛を伴って口から泡を吹く狂犬病や、遺伝子の変異から体毛が過剰に成長する多毛症などの症状が、健康な人々の目には恐ろしく映ったのだろう。

<リカントロピー(狼憑き)>
・リカントロピーは非常に珍しい精神障害で、2004年以降の報告はわずかに30ケースを数えるほど。気分障害や統合失調症と関連性があり、症状は自分が狼や熊などの獣に変わっていると錯覚してしまう。バビロニアのネブカドネザル王、そしてアルメニア王のティリダテス3世もこの病気にかかって苦しんでいたと考えられている。イギリスの劇作家ジョン・ウェブスターが発表した『モルフィ公爵夫人』(1614年)は、この病気に苦しむ狼男の悲哀を見事に描き出した作品だ。

<現代の狼男>
・近代になっても狼男を目撃したという報告はなくなっていない。第2次世界大戦末期にはナチスは連合国軍に牙をむく「人狼部隊」というゲリラ軍を結成したとされている。しかし、やはり狼男が存在するのはスクリーンの中だけだろう。

・それでも、どう見ても狼男としか思えないような行動を取る人もいる。オーストラリア医学ジャーナルで2009年に発表されたところによると、シドニーに北にあるニューカッスルの病院では、2008年8月~2009年7月の間に受け入れた「狼男のような」症状のある急患は91人ものぼった。狼男のようなとは、急に乱暴になって暴れ出す、スタッフに噛みつく、つばきを吐きかける、引っかくなどの症状で、それらの症状の23%は、満月の夜に現れている。これは、ほかの月相のときの2倍の数字だった。患者は拘束され、鎮静剤を投与されるしかなかったということだ。

<不思議の国の住人たち>
・大地の精であるノームは、子どもたちを笑わせる人気者。
ブギーマンは、大人でさえぞっとしてしまう。もちろん彼らは現実には存在しない。
いつも楽しそうな妖精から、いたずらなトリックスター、あの手この手で怖がらせようとしてくるスピリット(精霊)まで、世界中の文化の中に生まれてきた伝説の生き物だ。

[コブリン]
・ふざけてばかりの醜い小鬼ゴブリンは、子どもがいてワイン樽のある家に住み着く。家事を手伝ってくれることもあるが、とにかくとても騒がしい。追い出すには亜麻の種を床一面にまくといい。そうすると、もうその掃除を手伝ってくれるゴブリンはいなくなるが。

[ブギーマン]
・子どもをしつけるために罰を与える怖いお化けは、世界中どこにでもいる。オランダのボルマンはベッドの下に潜み、いつまでも起きている子を連れ去ってしまうと言い伝えられている。自分の下に怪物がいるなど、怖くて逆に目がさえてきそうなものだ。韓国のお化けはもっとわかりやすく、子どもが悪いことをすれば袋に入れてさらっていく。フィリピンのお化けは首がなく、その開いた首元から言うことのきかない子を飲み込んでしまう。

[フェアリー(妖精)]
・不思議な魅力でいっぱいのフェアリーは、羽の生えた小さな女性の姿で描かれることが多い。イギリスの書物に登場したのは13世紀、歴史家であるティル・ベリーのジャーベイズが書いたのが初めてだといわれている。おそらく、紀元前の神や精霊がもとになっているものが、多く、始めはかなり力が強く危険な存在だったらしい。しかし、語り伝えられていくにしたがって、人間のやることに首を突っ込みたがる親しみやすい精霊にイメージが変わっていった。代表的な例が、ピーターパンの友達ティンカー・ベルだろう。
 1962年には、サマセットの農家のおかみさんがバークシャーの丘で迷い、緑色の服を着たとても小さな男の人に会ったと話した。その小人はおかみさんを助けると、煙のように消えてしまったのだそうだ。

<宇宙の謎>
<昔から人類は意外な場所でUFOを目撃していた>
・不思議な物体が空を飛んでいたという記録が、これまでの歴史の中にないわけではない。大昔の人々は、長い尾を引いて空に現れた彗星を、神の警告ではないかと考えていた。その頃に描かれた洞窟の壁画の中に、宇宙から来たものとみられる絵が含まれていても、驚くほどのことではないだろう。

・1561年、ドイツのニュールンベルグの空で、色とりどりの三角や球、十字の形をした物体が「戦い合っている」ところを多くの人が目撃している。物体は1時間ほど戦ったあと、燃え上がり、地面に落下していったという。
 19世紀末には、パーシバル・ローレンス・ローウェルを初めとする欧米の天文学者が、火星の「運河」を観測していた。そして20世紀に入り航空技術が発達すると、おかしな飛び方をする物体を見たという報告が急増した。それは侵略者なのか、救世主なのか。H・G・ウェルズの小説『宇宙戦争』やアメリカン・コミックスの『スーパーマン』が人気を集めるようになると、そのような飛行物体の目撃報告はさらに増えていった。

<続く宇宙探査>
・こんなに科学が進歩しているにもかかわらず、彗星を見て宇宙人が来たのだと思い込む人々がいる。1997年、ヘブンズ・ゲートというカルト教団の信者39人が集団自殺をした。彼らは、ヘール・ボップ彗星とともにやって来た宇宙船が自分たちの魂を連れて行ってくれると信じていたのだ。

<ハワイで目撃>
・2017年、ハワイのパンスターズ1望遠鏡が、太陽系を駆け抜けていく葉巻型の物体を捉えた。つけられた名前はオウムアムア。ハワイ語で「メッセンジャー」という意味だ。オウムアムアは今までにない恒星間天体と考えられたが、宇宙人の船である可能性を唱える人たちもいた。その宇宙船説を後押ししたのがハーバード・スミソニアン天体物理学センターで、飛行スピードの変化の様子から、「地球外文明から意図的に地球のそばへ送られてきた十分に操作可能な探査機」の可能性があると発表した。

<未確認飛行物体>
・1947年の夏、あるパイロットがワシントン州のマウント・レーニア上空で、まるで「水面をかすめ飛ぶ皿のように」猛スピードで飛ぶ物体を目撃したと報告した。それを「皿のような形をした物体が」とニュースレポーターが言ってしまったことから、「フライング・ソーサー(空飛ぶ円盤)」という言葉が広まった。

・ニューメキシコ州ロズウェルに近い米軍基地から、空飛ぶ円盤を「捕獲」したという発表があったが、すぐにその発表は撤回された。

<空飛ぶ円盤か、ソ連の密偵か>
・それは折しも冷戦がはじまった頃だった。正体不明の飛行物体は、ソ連が軍事力を誇示するために飛ばしているものと考えられていた。アメリカ空軍は調査のためにプロジェクト・サインを立ち上げたが、地球外生物の可能性は、念のために視野に入れておいたという程度にすぎなかった。ほどなくして、新たに立ち上げられたプロジェクト・グラッジが調査を引き継ぐが、やはりUFOだという証拠は見つからなかった。その後のプロジェクト・ブルーブックも、1万2618件もの目撃情報を入手していながら、「UFOに関する報告はなにもない」と結論づけた。
 政府が、いくら宇宙人の存在を示す証拠は見つかっていないと発表しても、情報が隠蔽されたと信じて疑わない層もあった。それどころか、宇宙人に拉致されたという体験談も出てきた。有名なところでは、ヒル夫妻の話がある。1961年、ベティとバーニーはニューハンプシャー州のホワイト山地で宇宙人に捕まり、髪の毛や爪を採取されたと語った。

・現在では、アメリカ人の半数以上が、地球外生命体の存在を信じているという。おかげで愛好家が訪れるようになったロズウェルには、UFO博物館が設立され、年に一度、UFOフェスティバルも開催されている。



『魔法使いの教科書』   神話と伝説と物語
オーブリー・シャーマン 原書房 2019/10/25



<魔法使い>
・魅惑的な物語や神話、不思議な話の中心には必ず魔法使いがいる。光と影のはざまで魔法使いはその不思議な力を発揮し、自身の周囲に真実を作り上げる。遠い昔、わたしたちの祖先が火のまわりに腰をおろして語り合っていた頃も、コンピュータで特殊効果を作り出す現代においても、魔法使いがわたしたちを魅惑する点は変わらない。
 本書は魔法使いと魔法の世界を探求する。不思議と善と悪に満ちた世界。マーリンやニコラ・フラメル、ハリー・ドレスデンといった偉大な英雄が存在し、またサルマンやキルケー、バーバ・ヤガーなど恐ろしい悪者がいる世界だ。

・小説や映画といったポップカルチャーに目を向ければ、人々がいかに魔法使いに胸躍らせているかがよくわかる。J・K・ローリングの作品が刊行されたときには、何千万人もの人々が書店へと急いだ。ハリー・ポッターという名の少年が自分が魔法使いであることを知り、当惑しながらもホグワーツ魔法魔術学校で学ぶ物語だ。映画もそうだ。サウロンや「ひとつの指輪」の力と戦う「灰色のガンダルフ」が登場する、ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』。このシリーズを観ようと映画館へと足を運んだ観客は何百万人にものぼった。

<魔法使いとは?>
<魔法使いには、おせっかいをやくな、変貌自在でよくおこる>
・長くゆったりとした服を着て、先がとがった長い帽子をかぶった不思議な人物の絵があるとしよう。この人物は長杖や、短めの杖を手にしているかもしれない。長くて白いあごひげをたくわえ、年はとっているが力にあふれている。たいていの人は、この不思議な人物が魔法使いであることがすぐにわかるだろう。『ハリー・ポッター』シリーズでホグワーツ魔法魔術学校に入学する魔法使いたちは、魔法使いのローブと杖(先のとがった帽子については触れていないが、あとで購入するのだろう)を買う必要がある。またホグワーツの校長であるアルバス・ダンブルドアは、ここに書いた姿にまさにぴったりとあてはまる。
 だが、魔法使いがみなこうした外見だというわけではない。背丈も体型も、年齢もさまざまだ。男性もいれば女性もいる。長いローブをまとっていることもあれば、ジーンズにTシャツの魔法使いもいる。
 魔法使いについて重要なのは「外見」ではなく、その魔法使いが「なにをするか」だ。基本的に、魔法を使って現実を操作する者を魔法使いと呼ぶ。それが、魔法使いすべてに言えることである。
 もちろん魔法使いといってもみな同じタイプというわけではなく、その能力のレベルも異なる。たとえば次のようなタイプの魔法使いがいる。
◆アデプト(魔術の達人)      ◆神秘主義者
◆シャーマン            ◆見習い魔術師
◆死霊術師(ネクロマンサー)    ◆ソーサラー
◆占い師              ◆マグス
◆ヘッジ・ウィザード(魔法使いくずれ、似非魔術師)
◆アオーマタージスト(秘術師)
 ここに錬金術師をくわえる人もいる。中世とルネサンス期において広く研究されていた錬金術は、卑金属を黄金に変える方法を求めるものだ。

<魔法使いの役割>
・さて、魔法使いはどのようなことをするのか?
 それは、魔法使いのおかれた社会状況によって千差万別だ。原始社会における魔法使いとは、自分の体を介して――多くはトランス状態になって――不思議な力を発現させることのできる人物のことだった。

・こうした大昔の魔法使い(シャーマン)は、部族の人々が安定した生活を送るうえで大きな役割を担っていた。その魔術が十分な力をもつものであれば狩りはうまくいき、食料を確保できたのだ。シャーマンがトランス状態に入ってから壁画を描き、「別世界」の精霊と交信した、という説を唱える学者もいる。狩りの成功と獲物を授けてくれる精霊の言葉を、シャーマンが人々に伝えたというのだ。

◆魔法使いは不可思議な知恵を備え、その知恵の多くは呪文の本に書かれたり、何代にもわたって口伝えにされたりしている。このため、その時々の支配者に相談役として仕えている場合も多い。マーリンはアーサー王に伝え、ジョン・ディーはエリザベス1世の宮廷の相談役だった。またディヴィッド・エディングスの小説に登場する魔術師ベルガラスは、国の一大事にさいして多くの王や王子に助言を行なった。

◆魔法使いは強い能力をもつ英雄であり、弱者に襲いかかる敵と戦う場合にはとくに力を発揮する。『指輪物語 旅の仲間』では、カザド=ドゥームの橋の上で怪物バルログと対峙する力をもつのはガンダルフだけだ。「これはあんたたちがかないっこない敵だ」とガンダルフは旅の仲間に言う。

◆魔法使いは予言を行なえる。T・H・ホワイトの『永遠の王 アーサーの書』では、マーリンには未来が見える。彼は時をさかのぼって生きているからだ(つまりマーリンの過去が我々の未来だ)。メアリー・スチュアートの小説『水晶の洞窟』では、マーリンは「旧神」たちと交信することでロウソクの炎のなかに将来のできごとが見える。魔法使いがみなこれをできるわけではなく、また限定的なことしか予言できないものもいる。たとえば灰色のガンダルフは、中つ国のさまざまな場所で起こることが見え、できごとをある程度まで予言できるが、詳細にわかるわけではない。

◆魔法使いは呪文を唱えて、なにかを出現させることができる。CSルイスの『朝びらき丸東の海へ』では、魔法使いのコリアキンが魔法の力で、「朝びらき丸」の乗員に心のこもったごちそうを出す。アルバス・ダンブルドアも、ホグワーツの大広間で開かれた新入生の歓迎会で、生徒たちのために同じようなことをやってのけた。
 こうした術はなにかと役に立つものばかりであるため、魔法使いはしばしば旅の先頭に立つことになる。

<魔法の暗黒面>
・魔法使いは、その力ゆえに暗黒面ももちあわせている。『指輪物語 旅の仲間』では、ガンダルフがフロド・バギンズに指輪の危険性を警告する場面がある。指輪をもてばガンダルフでさえも「冥王その人のようになる」と言うのだ。最初は善行のために指輪を手にしても、指輪がそれを捻じ曲げて、悪に変えてしまうことを知っているのだ。

・魔法使いにとって暗黒面に立つことの魅力とは、力――このため傲慢になることもある――を得て、つねに光と影のはざまに身をおくことにある。忘れてならないのは、当の魔法使いからすれば、自身は「悪ではない」という点だ。マーリンの強大な敵である魔術師モーガン・ル・フェイは、自分の母を操ってウーサー・ペンドラゴンと床をともにさせた――このためアーサーを宿した――魔法使いのマーリンを憎んでいる。彼女は異父弟であるアーサーと交わり、モードレッドを産み、モードレッドがアーサー王を殺すことになるのだが、彼女に言わせればそれは復讐なのだ。
 ブォルデモートはハリー・ポッターの両親の命を奪った悪の魔法使いであり、シリーズ全巻を通して不気味な存在だが、それでも正義は我にありと思っている。魔法使いはふつうの人間であるマグルよりもすぐれていて、このため純血の魔法使いがマグルを治めるべきだというのがヴォルデモートの言い分だ。ヴォルデモート自身がマグルとの混血という事実は無視しているようだ。彼は、自分にはほかのどの魔法使いよりも才能があるということしか頭にない。だからもちろん、魔法界を治めるのは自分以外にないのである。

<マーリン  過去と未来の魔法使い>
・マーリンは穏やかに微笑した。
「………わしは、すべての人間が知恵を己のみに見出さんと努力し、他には求めんようにするのが神のご意志だと存じております。赤子は乳母から柔らかく噛んだ食べ物を与えられることがあっても、大人は自分のために知恵を飲んだり食べたりできると」

・もっとも有名な魔法使いと言えば、それはおそらくマーリンだ。彼の伝説をたどることで、わたしたちは多くの魔法使いに関するさまざまな物語に触れ、魔法使いの伝説がどのようにして生まれたかを知るのだ。
 もちろんマーリンは、「アーサー王と円卓の騎士」という壮大な物語の一登場人物にすぎない。「ブリテンの話材」と言われることもあるこの伝説は、イギリスの国民的神話となっている。この伝説にかかわるとされる場所もいくつか実在する。コーンウォール州のティンタジェルはアーサー王の出生の地であり、サマセット州のグラストンベリーにはアーサー王とグィネヴィア妃が埋葬されていると言われる。グラストンベリーは、謎に包まれたアヴァロンの島だともされている。

<ジェフリー・オブ・モンマス>
・マーリンの物語は、1136年にジェフリー・オブ・モンマスが書いた『ブリタニア列王史』に登場するのがはじまりだ。印刷技術が誕生する以前の時代には、書物はすべて手で写し装飾を行なわなければならなかった。そうした時代の書である『ブリタニア列王史』が非常に多数――200冊を超える――現存していたことから、この書の人気の高さがうかがえる。
 
・ジェフリーの物語では、サクソン人と手を組もうとするブリテン王ヴォーティガンが塔を建てようとするが、何度建てても壁が崩壊する。ヴォーティガンは宮廷魔術師から、父親のいない少年を生贄にしなければ崩壊を止められないと教えられる。ヴォーティガンの兵士が見つけたその少年こそマーリンであり、彼らはマーリンを王のもとに連れてくる。しかしマーリンは、壁の土台の下では2匹のドラゴンが戦っており、それが壁が崩壊する原因なのだと王に言う。そしてその場でマーリンは、ブリテン島の先住民であるブリトン人が、侵略者のサクソン人に勝利するという予言を行なうのだ。
 その直後、ローマ兵のアンブロシウス・アウレリアヌスとその弟のウーサーがイギリス海峡を越え、ヴォーティガンを戦闘で倒す。マーリンは
アンブロシウスの宮廷に仕え、その力を役立てた。アンブロシウス・アウレリアヌスがサクソン人に殺害された人々を悼む碑を建てたいと言うと、マーリンは、それにふさわしいのはアイルランドにある巨大な立石群だけだと助言する。強力な魔術を使ってマーリンはこの石をアイルランドから運び、積みなおして記念の碑とした。それが今日、ストーンヘンジと呼ぶものだ。
 アンブロシウスが亡くなると、そのあとをウーサーが継ぐ。これ以降は、わたしたちにはなじみのある話だ。ウーサー王が、コーンウォール公の妻であるイグレインに恋をする。そして王の求めに応じ、マーリンはウーサーの姿をコーンウォール公に変え、イグレインはアーサーを宿すのだ。
 ジェフリーの物語ではこの時点でマーリンについての記述はなくなり、石に突き刺さった剣や、のちにマーリンがアーサー王の統治にかかわることは一切でてこない。しかしジェフリーは『ブリタニア列王史』の1章分をすべてマーリンの予言にあて、この章がひとり歩きして、マーリンは予言者であるとの評価は確立したのである。
ジェフリーのラテン語による作品はウァースによってアングロ=ノルマン語に翻訳され、それからラヤモンによって中英語に訳された。この中英語版には、マーリンが宮廷に戻ってきてウーサー王に助言する場面があるのだが、それでも石に刺さった剣の記述はない。

<ロベール・ド・ボロン>
・フランスの詩人、ロベール・ド・ボロンが1200年頃に著した『メルラン』では、宮廷に仕える以前の、夢魔を父にもつというマーリンの生まれについて語られている。この作品では、マーリンの予言の能力は、母親が敬虔なキリスト教徒であったため神から賜ったものとされている。ボロン版のマーリンは、「巨人の舞踏」(ストーンヘンジ)をアイルランドからイングランドへと運ぶことにくわえ、カーライルに「円卓」を設置する(のちの伝説とは違い、ボロン版ではアーサー王ではなくウーサー王の統治期に円卓がおかれる)。
 そしてようやく、石に突き刺さった剣の話が登場する。アーサーが王の子であり、王座の正統な継承者であることを証明するものだ。ド・ボロンは、マーリンをこうしたできごとの立役者として登場させている。
 アーサーが王座についたあと、マーリンはアーサー王にエクスカリバーの剣を与え、アーサー王とその騎士たちの死を予言する。また、「聖杯」の探索や、トリスタンとイゾルデの恋愛といったできごと、さらには自身の死についても予見するのだ。マーリンの死はニネヴェという名の不実な若い女性がもたらすもので、ニネヴェは老魔法使いマーリンを誘惑して魔術を教わり、それを使ってマーリンを洞窟に閉じ込めて、巨石で入り口をふさいでしまう。

<トマス・マロリー>
・ボロンのマーリンから300年近くのち、ほぼ同じような物語が書かれた。英国人騎士のサー・トマス・マロリーによる『アーサー王の死』だ。この作品の人気が高いのは、ひとつには(15世紀には伝説の王についての物語が大きな人気を博していたのとは別に)、イングランドで、「活版印刷」という新しい技術で製作された書のひとつだったからだ。                             
 マロリー作品のマーリンはド・ボロンのマーリンと似ているが、予言者という面はそれほど強調されていない。マロリーはニネヴェの名もニムエに変更した。マロリーはおもに、フランス語で書かれた5巻からなるロマンス『流布本サイクル』と、現代の学者が『頭韻詩アーサー王の死』、『八行連詩アーサー王の死』と呼ぶ英語の2作品を典拠とした。

<後世の作家>
・わたしたちがよく親しんでいるマーリンは、マロリーが描いたものですべての要素がそろうが、後世の作家たちも、この偉大な魔術師の話をさまざまに書いた。19世紀には、詩人のアルフレッド・テニスン卿がアーサー王に関する壮大な物語詩『国王牧歌』を書いた。この物語詩の「マーリンとヴィヴィアン」の章では、マーリンの死が語られる。テニスンは『国王牧歌』を書くさいに中世の伝説をよりどころとし、マロリー作品のニムエを「湖の乙女」ヴィヴィアン(エクスカリバーをアーサー王に与える)としている。

・「年はとっていても恋をしたい」という老魔術師の弱みを利用し、ヴィヴィアンはマーリンに取り入って魔法の秘術を盗み、最後には呪文を唱えてマーリンを樫の木の幹に閉じ込めるのだ。
 後世の作家や小説家たちが、この筋書きに変更をくわえている場合もある。メアリー・スチュアートの『最後の魔法』では、マーリンとニニアン(ヴィヴィアンの名はこう変更されている)は恋に落ち、深く愛し合う。だがふたりのロマンティックな牧歌は、マーリンの突然の病と死によって終わる。ニニアンはマーリンを悼み、マーリンが愛した水晶の洞窟に彼を埋葬する。時を経て目覚めたマーリンは苦労の末に墓を出て、キャメロットに自分が健在であることを伝えようとする。しかしニニアンには別の恋人がおり、新しい宮廷魔術師として足場を固めている。マーリンは彼女の新しい関係を受け入れ、洞窟に戻り隠者として生きていくのである。

・ジョン・ブアマン監督の映画『エクスカリバー』では、マーリンを水晶の洞窟に閉じ込めるのはモーガナだ。モーガナは策略をめぐらせてマーリンから召喚の呪文を教わり、その魔術でマーリンを閉じ込める。しかしマーリンにとって致命的な一打になったのは、アーサー王に対するランスロットの裏切りが判明したことであり、王国は分断し、衰退の一途をたどって、混沌が王国を支配する。結局、マーリンが人の世に戻れるのは夢のなかでのみとなる。

<映画とテレビのなかのマーリン>
・映画製作者にとってマーリンは、つい登場させたくなるキャラクターのようだ。伝統的な魔法使いのイメージにぴったりだからだろう。ここに挙げるのはマーリンが登場する映画だ。
◆『魔法使いの弟子』(2010年)
◆『マーリンの帰還』(2000年)
◆『タイムマスター/時空をかける少年』(1995年)
◆『エクスカリバー』(1981年)
◆『宇宙人とアーサー王』(1979年)
◆『吸血鬼ドラキュラ2世』(1974年)

<『王様の剣』>
・1963年にディズニーは、若き日のアーサー王を題材としたT・H・ホワイトの古典を、アニメーション映画『王様の剣』にした。セバスチャン・キャボットは別として、無名の声優たちが登用された作品だ。この映画のマーリンは、ホワイトが描いたように少々風変わりでぼーっとした老人で、たまたま魔法使いだったという感じだ。しかし映画では原作のなかの大きな要素をいくつか省き、その代わりに、マーリンと悪い魔法使いのマダム・ミムの魔法対決を挿入している。

<時代を超えた魔法使い>
・伝説のなかで、「魔法使いとはこうあるべきだ」というすべてを体現しているのがマーリンだ。だから何千とは言わないでも、何百というマーリンの物語が何世紀にもわたって生まれているのだろう。メアリー・スチュアートの小説『ホロー・ヒルズ』でも、マーリンが悪の魔女モルゴースにこう言う。

 わしは何者でもない。空気であり、闇であり、言葉であり約束だ。わしは洞窟に控え、水晶越しにものを見る。だが外の光の世界にはわしが仕えるべき若き王がおり、輝く剣がなすべきことを行なう。そしてわしが作る国は時を重ねていき、そこではもはやわしの名は忘れられた歌にしか見つからず、わしは使い古された知恵となっている。だがモルゴースよ、そのとき、そなたの名は闇でささやかれるものでしかないのだ。

<新しい神の登場>
・マーリンがブリテン島におけるキリスト教以前の宗教を体現し、「唯一神」に対抗する存在だというアイデアは、現代の物語に広く浸透している。たとえば映画『エクスカリバー』やメアリー・スチュアートの『水晶の洞窟』、マリオン・ジマー・ブラッドリーの『アヴァロンの霧』もそうだ。しかし、昔からあるマーリンの物語にはそうした設定はない。たとえばトマス・マロリーの『アーサー王の死』は、完全にキリスト教的背景を持つ内容だ。

<BBC製作のドラマ『魔術師マーリン』>
・アメリカのTVドラマ『ヤング・スーパーマン』(スパーマンの少年時代の物語)の成功に発奮し、英国放送協会(BBC)は2008年に『魔術師マーリン』の放送を開始した。

・若きマーリンとアーサーのドラマで、主従関係にあるふたりが友情とも呼べる絆を育んでいく。
 このドラマのアーサーは、宮廷の外で秘密に育てられているという設定ではない。ウーサーの息子であるアーサーは、自分が王子であり、将来王座につく身であることは十分承知している。マーリンはアーサーの従者になるが、魔法使いであることはアーサーと周囲の人々に絶対知られないようにしている。ウーサーが法で魔法を禁じており、魔法を使用すると死刑になるからだ。マーリンはドラゴンと親しく、ドラゴンはときおり彼に助言する。このドラゴンは、マーリンがなにをおいてもアーサーの身を守らなければならないのだと説く。このためマーリンは、魔法使いであると知られないようにしつつ、魔法を使って王子アーサーのさまざまな敵を倒すという苦労の連続だ。それにくわえてマーリンは、傲慢なアーサーを相手にウィットと皮肉で切り返さなければならない。

・幸い、アーサーは自己中心的な愚か者のように振るまってはいても、自分がそれに気づく程度の分別はある。このシリーズが描いているのは、若いふたりがともに成長し、友情の絆を育んでいき、それがその後の人生に役立っていくという物語とも言える。
 モーガン・ル・フェイはこのシリーズではモルガーナという名になっており、当初はマーリンともアーサーとも友人だ。しかしウーサーが彼女の両親を裏切ったことがわかるとふたりの敵に転じる。グィネヴィアは王女などではなくごくふつうの民のひとりで、最初にマーリン、その後アーサーの友人となり、それから王子と恋に落ちて結婚する。
 このシリーズはイギリスで大きな人気を博し、2009年初めにはアメリカに輸出された。

"イギリスには幽霊の出る場所が1万ヵ所もあるといい、ゴーストの秘密を探ろうという人たちが、温度計を手に歩きまわっている。気温が急に下がるのはゴーストが出現したサインだという。(1)" へのコメントを書く

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