星野の話のなかでも、耳を疑うほど驚いたのは、「東条英機がミッドウェー海戦の無惨な戦況を知ったのはサイパン陥落の直前だった」というくだりである。(2)



『天皇の金塊』
高橋五郎  学習研究社   2008/5



<明治以降の日本における最大のタブーと欺瞞>
・「金の百合」と称せられる“巨大資金”がわが国には隠匿されている。戦争を繰り返した大日本帝国が、“天皇の名”のもとにアジア各地から強奪した戦利品の集大成である。現代の日本社会をも動かしつづけているという、この略奪財宝の実態とは果たして何なのか?{金の百合}を軸に見えてくる、これまで決して語られることのなかった、明治以降の日本における最大のタブーと欺瞞を白日のもとにさらす。

・繰り返すが、ほぼ150年前のいわゆる“近代ニッポン”の始まりは国民のための近代社会の始まりとはまるで無関係だったということだ。要するに明治維新を革命と讃えている間は、大正・昭和・平成と続く時代の真実は見えないようになっているのである。

<ヒロヒト名義の大量金塊がフィリピン山中に今も隠匿>
・「あの戦争の最中も、昭和天皇のマネーはバチカン系の金融機関で運用されていたものだったよ」。私が元ナチス・ドイツのスパイ(スペイン人ベラスコ)から、昭和天皇の名義とされる「天皇の金塊」=秘密マネーがバチカン系の銀行で運用されていた――こんな話を聞かされたのは1980年(昭和55年)の初頭だった。

・ベラスコ(南欧系、熱血漢)は戦時中、戦費の調達目的で秘密交渉を担当したナチス親衛隊大将で保安諜報部外務局長の「RSHA」ワルター・シューレンベルグ(北欧系、青白き天才)と共によく銀行に出向いていた。訪問先はドイツ国立銀行ライヒスバンクとスイスに新設された銀行――金塊を担保に、参戦国全ての戦費融資に協力する唯一の“戦時”バンク、国際決済銀行(通称BIS)だ。

・ドイツ国防軍情報部(アプヴェール、長官カナリスはシューレンベルグと犬猿の仲)に所属するベラスコはSSシューレンベルグの活動エリアよりも広く、ドイツ国内はもとよりスペイン、イタリア(バチカン教皇国)、日本も含んでいた。

・ベラスコが機関長を務めた情報機関(TO)は、歴史と宗教上の経緯から南米スペイン語圏の大小の諸国と太平洋の島嶼フィリピン諸島を活動の範囲に含んでいたのだ。

・私はベラスコが勿体をつけて語ったバチカン・マネーの話を聞いてからほぼ数年後の1988年頃、今度は乾き切ったシュールな金塊話を日本人の国際金融ブローカーたちから聞かされることになる。それは昭和天皇(日本皇室)所有で知られた金塊が天文学的規模で現在もフィリピン山中に隠置されているというもの。天皇家名義の金塊のほかにバチカン名義の金塊も含まれるともいう。

<“霞ヶ関埋蔵金”こそ実は「天皇ファンド」「天皇の金塊」の利息分>
・福田新総裁が誕生して、民主党が参議院を制している環境のなかで道路特定財源の扱いを巡る攻防が喧しい。そんな中で元自民党幹事長の中川秀直が「予算が足りなければ“霞ヶ関埋蔵金”を使えばいいじゃないか」と発言。これが2007年(平成19年)末の永田町のちょっとした話題になった。中川のいう埋蔵金はいわゆる「M資金」などとも呼ばれた出所不明の部類の資金のことなのだが、それについて新聞はもとより、政府実力者たちすら本当のこと=「金の百合」をまったく知っていなかったようだ。

<マルコス大統領が「金の百合」を換金するには黄金商売人一族の裁可が必須>
・フェルディナンド・マルコス。彼は一介の弁護士からフィリピン大統領に成り上がった立志伝中の人で、大統領の座を「金の百合」資金で買い取った人物でもある。その後ろめたい秘密を炙りだす最初で最後のキッカケが「マルコス裁判」だった。マルコスはこの裁判で大統領の座から失墜する。民間人の山師が掘り起こした「金の百合」の一部をマルコスが強奪したことから争われたその民事訴訟裁判は、マルコス被告に賠償金430億米ドルを支払わせた。

・賠償金の原資もまたマルコスが地下サイトから秘密裏に回収した「金の百合」の一部が生み出したカネで賄っている。マルコスが大統領時代に地中から回収して換金、内緒で懐に入れたカネはおよそ1兆6300億米ドルにものぼっていた。

<「黄金ファンド」は「四ツ谷資金」「キーナン資金」「M資金(吉田資金)」>
・「黄金ファンド」(基金)は、1946年1月19日の“東京裁判”(極東国際軍事裁判)をまるで待ちかねていたかのように動かした。裁判向けの経費支出は、フィリピン山中から初めて金塊を堀り起こしたアメリカの将官(前述)であったサンティとランスデールの上官で日本占領軍司令部G-2のチャールズ・ウィロビー将軍が担当した。ウィロビーは「黄金ファンド」を「四ツ谷資金」「キーナン資金」、そして、のちに両資金を合体させる通称「M資金」に分けて支出した。「四ツ谷資金」とは当時の歓楽街で、無法者がはびこる新宿四ツ谷界隈をもじった呼び名だといわれる。

・たとえば、中国、満州それに朝鮮半島方面にスパイを送り込んだり、国内の左翼活動家や団体を弾圧する指揮現場が四ツ谷周辺にあったからだとも言われる。基金は反共作戦に動員する右翼活動家や暴力団を支援する資金にも使われると同時に、左翼勢力にも裏面で渡された。日本の共産党が戦時下も戦後もアメリカ共産党と教会経由の資金援助で活動していたことはよく知られている。

<昭和天皇の国師、三上照夫は物理霊媒の亀井三郎と双璧の博士>
・三上は毛沢東、周恩来の学者ブレーンたちと協議して日中国交回復時の対日賠償請求を中国側に断念させた人物だ。三上は3人のニッポン人国際法学者を同行、中国側の専門家たちとの間で日中の歴史(戦争)問題を事前に片付けて田中角栄の訪中をスムーズにした。

・その外交交渉の裏舞台で三上は「兵馬俑の共同開発をしないか」。中国側からそんな話を持ちかけられた。三上が共同発掘を断った理由は「地中に意念が残されていて危ないからだ」とのことだった。ここで、国師三上照夫の人物像について、三上を慕った周辺の人物たちが知る範囲と、三上が私に直接語ってくれた範囲で説明しておこう。

・終戦時、三上は大正から昭和にかけて活躍した京都の仏教学者(文学博士)でのちに禅の巨匠と呼ばれる今津洪嶽(1841-1965)の愛弟子であり、ユダヤ・キリスト教の経典をへブライ語で通読する若者の1人として、皇居に招かれて昭和天皇にユダヤ・キリスト教とは何かを進講し
ている。

<三上が物理霊媒力を備えた若者だったことを知る人は少ない>
・日本で稀有な能力が研究者の手で改めて明かされた人物は昭和初期のいわゆる物理霊媒師の亀井三郎。本稿はすでに故人になった亀井三郎の超能力者ぶりを例に、三上照夫が備えた物理霊媒能力を説明しておこう。物理霊媒という超能力は、たとえば物体に手を触れないでその物体を空中浮遊させたり、距離と無関係の遠い場所にある物体やあらゆる状況を鮮明に透視する能力のことだ。こうした超能力を三上は備えていた。

・1923年(大正12年)日本心霊科学研究所を創設した浅野和三郎は、亀井三郎の超能力ぶりを知り、人物亀井の出現はペリー提督の黒船登場にも勝る、と驚嘆したと伝えられている。ちなみに浅野和三郎は日本心霊科学の父と呼ばれた人物だ。

・亀井は彼らの面前で数種の楽器を空中浮遊させ、それぞれの楽器から音を鳴らして見せた。また床に置かれた紫檀製の重いテーブルを空中に浮揚させ、そのテーブルを数人掛かりで床に引き戻させたが、テーブルは天井に張り付いたまま動かなかった。

・昨今のテレビ番組が紹介している「超能力者」たちのそれらのようにも見えるが、亀井の能力は似て非なるものだった。亀井には心霊の存在をカタチで現す能力もあった。霊媒亀井の鼻孔から溢れ出る白い固形の流動物に人間の顔写真(いわばプリントゴッコに写った写真)のシールを貼ったような著名な人間の顔が次々と現れる霊力だ。

・専門家たちはその現象をエクトプラズムと呼んでいる。つまり、見えない霊を見えるカタチに変える物質化現象のことだ。亀井は心霊人間であって娯楽向け手品師ではない。超能力ぶりを示している場面は大手新聞にも掲載されている。

・三上照夫は文学博士、経済学博士で、東大・京大・大阪大教授を歴任し、佐藤から中曽根まで7代、22年間内閣ブレーンを務めるとともに、亀井三郎と同じ古神道の世界に生きる“超能力者”だった。その三上に亀井は接触、三上が主宰する古神道系団体「御上教苑」で活動した。亀井は自らも神霊界や古神道の勉強道場「白日教苑」を支援者を得て進めていたから三上とはすぐに共鳴した。

・「先生(三上)は私が娘時代に8畳間ほどのお部屋で私の父とお話をされている間に、お部屋の片隅に置いた私の人形を、お部屋の反対側の隅っこに手も触れずに移動させました。私は驚きましたが今はもう驚きません」

 1992年頃、私は三上が上京するたびに三上身辺のお世話係を務めている中年女性からこの話を聞いた。私は天皇の国師三上がそれまで黙して語らなかった三上の一部を知ったものだった。

<「黄金ファンド」の存在と活用法を熟知の三上照夫は松下幸之助や歴代総理の指南番>
・三上青年がGHQ占領中の皇居訪問以来再び皇居に招かれて天皇の国師として仕えてきた事実は現在もごく内輪の関係者が知るのみだ。早すぎた晩年を迎えて鬼籍に入った三上が、その直前に自身から実は、と天皇に仕える立場を語ったのを聞かされた内輪の人々のほかには知られていない。天皇の侍従長、入江相政が三上を大切にしたという説とその逆の説もあるが、真実を知る者はいない。

・三上は次の皇太子徳仁(浩宮)親王の先生役を再び務めるつもりだと私に嬉しそうに語っていたものだった。昭和天皇の国師のみならず佐藤栄作首相からその後に続く歴代の首相の相談に乗ってきていた。

・三上に相談を続けてきた実業家の1人に松下幸之助がいた。松下は三上から「帝王学」を15年間教えられてきた。佐藤政権以来の大蔵、通産、外務など主要各省の上級官僚たちも毎年正月には、内政、経済、外交などの見通しを三上から示唆されていた。

・三上は「黄金ファンド」の存在と活用方法をよくよく心得ていた。三上の周辺のごく内輪の人も「黄金ファンド」(秘密資金)の存在を知らなかったが、三上がしばしば口にする「産業育成資金」(前出)については周辺の人々も頭の中では知っていた。周辺の人々はおそらく今も、三上が口にしたアメリカに積んである「産業育成資金」、それが「黄金ファンド」のことで、“天皇マネー”に端を発した秘密資金だとは気づいていないだろう。

<ウィキペディアWikipedia(フリー百科事典)からの情報>
小野田 寛郎(おのだ ひろお、大正11年(1922年)3月19日 - 平成26年(2014年)1月16日)とは、日本の陸軍軍人、実業家。最終階級は予備陸軍少尉。旧制海南中学校・久留米第一陸軍予備士官学校・陸軍中野学校二俣分校卒。
情報将校として大東亜戦争に従軍し遊撃戦(ゲリラ戦)を展開、戦争終結から29年目にしてフィリピン・ルバング島から帰還を果たす。



『AI時代の新・地政学』
宮家邦彦   新潮社   2018/9/13



<AI兵器>
AI時代を迎え、従来の地政学の常識は大きく書き換えられていく。戦略兵器となった「AI兵器」が核にとって代わり、熱い戦争ではなく「水面下の刺し合い」が主戦場となる可能性すらある。

・国際情勢分析を仕事とする身としては、現在起こりつつあるAI革命が伝統的な地政学的思考に如何なる影響を及ぼすのか、考え続けざるを得ない。

・伝統的地政学とは、ある民族や国家の地理的状況や歴史的経緯に着目し、当該国家・民族や関連地域への脅威およびその対処方法を考える学問だ。
 しかし、特定の国家が有する地理的・歴史的状況はそれぞれ大きく異なる。安全保障上の利害関係に関しては、全世界共通の傾向や法則などそもそも存在しない。

・でも恐れる必要はない。これは日本にとってピンチであると同時にチャンスでもある。世界の一流国として21世紀に生き残っていけるかもしれない。逆に、この大変革期に及んでも従来の不作為と受動的対応を繰り返せば、人口減少による二流国への転落が確実に待ち受けている。

<AI革命で激変する地政学>
・しかし、筆者が懸念するのは、日本での主たる関心事がAIのビジネスに与える影響であるのに対し、他の主要国では政治・軍事に与える影響についてもその研究に多大な人的・財政的資源が投入されていることだ。

<第5次中東戦争はもう始まっている>
・ところが、最近の情報通信処理・AI技術の飛躍的進展は、伝統的地政学が示す優位・劣位の環境を逆転させつつある。従来の強者が弱小集団に簡単に敗れる可能性が出てきたのだ。

・その典型例が、カタルに対するハッキングやレバノンのサイバー戦遂行能力の向上だ。例えば、昔ならレバノンからカタルに直接攻撃がなされる可能性はほぼゼロだった。が、今やレバノンのような人口の少ない貧乏国でも、サイバー空間では相当程度の攻撃力を得ている。なぜこんなことが可能になったのか。

・サイバー戦の世界では防衛よりも攻撃の方が遥かに安上がりである。

・特に、攻撃ソフトを扱う闇市場では入手コストが大幅に下落している。

・だから最近は、伝統的優勢国でも弱小国の攻撃を抑止できなくなっている。

・巷では「AI技術が経済やビジネスを変える」といった議論が盛んだが、AIには伝統的国際情勢分析の常識を破壊する力もある。

<AIが作る芸術には創造性はあるのか>
・結局、人間は進化したAIに支配されてしまうのか。そこで問題になるのは、AIが人間の能力を超える、いわゆる「シンギュラリティ」の概念だ。シンギュラリティが本当に現実となるか否かについても議論がある。

<AI革命はダークサイトを変えるか>
・ラッダイド運動から50余年後の1864年、ロンドンで第一インターナショナルが結成されたが、AI革命の結末は2つ、第1はダークサイドの拡大と過激化であり、第2はネオ社会主義の台頭の可能性だ。10年後の世界は大量の失業者の不満と怒りを誰が吸収するかにかかっている。

<AI革命と米中の地政学>
・AI技術による米中の力関係の変化は日本の安全保障に直結する重大問題だ。日本もAIの軍事応用を本気で始める必要がある。

<AI革命と米露の地政学>
・ロシアがAI分野で米国に勝つことはなさそうだが、ロシアが米国以上に、他国を実際に攻撃・占領することの政治戦略的意味を熟知していることだけは間違いない。米露競争は今後も緩むことなどあり得ない。

<AIと日韓、日朝、日中の地政学>
・問題は対中関係だ。既に触れた通り、中国のAI技術革新は目覚ましい。しかも、その多くは中国国内の社会管理や言論統制など独裁体制を維持するための活動に応用されている。個人のプライバシーを保護することなく、10億人以上ものビッグデータを活用できる中国が国内の管理統制体制を完成させれば、次のターゲットは潜在的敵性国家である日本となるだろう。

<AI革命は戦争をどう変えるのか>
・80年代にはIT革命が米ソ冷戦の終焉とソ連邦崩壊をもたらしたが、2020年代のAI革命は一体何を引き起こすのだろうか。

・しかし、民間主導で急速に発展しつつあるAI技術の軍事転用を条約などで規制することは、航空機や核兵器と同様、事実上不可能だろう。
 AI軍事技術のもう1つの問題点は、議論が兵器システムという戦術面の核心に集中していることだ。AI軍事技術の最大の問題は無人兵器運用の是非などではなく、それが国家軍事戦略を根本から変えてしまう可能性である。

<AI革命で変わる国家戦略論>
1、 AIが国家軍事戦略を変えるということは、AIが核兵器に代わり、「戦略兵器」になり得ることを意味する。戦略兵器とは、それだけで敵の戦意を喪失させ、自らの勝利を保証する究極兵器だ。
2、 AI兵器が敵の戦意を喪失させるとは、核兵器を使わずに、AI兵器だけで、敵国の「大量破壊」が可能になるということだろう。
3、 現在、核兵器は「使いにくい」兵器となりつつあるが、AI兵器は従来タブーだった「大量破壊」をより容易に、かつAIだけの判断で、実行し得るようになるのだ。
4、 これを阻止するには、敵のAI軍事能力を減殺する「対AI軍事技術」を実用化していくしかない。

・そんな未来を議論している米国と比べ、日本は今もAIの軍事応用はタブー、「対AI軍事技術」の議論も皆無だ。これも背筋がぞっとする話ではないか。

<AIを悪魔にするのは人間である>
・当面は「AI」対「人間」の戦いにならない
・AI同士の戦いで優れたAIが勝利する
・AIを悪魔にするのは機械ではなく人間である

<AI革命時代に日本がすべきこと>
・(AI時代に日本が何を考え、何を実施すべきか。論点は4つある。)
・AI革命の影響・効果は経済分野だけではない
・AI革命は短期的に社会的格差拡大を助長する
・AIは軍事・安全保障分野でも革命を起こす
・今、重点投資すべきは「対AI軍事技術」である

・(では日本は何をすべきか。幾つか提言しておきたい。)
・戦後空想的平和主義からの脱却
・AI技術の軍事応用に関する研究者の養成
・AI技術の軍事応用に対する予算配分
・対AI兵器技術の重点的な研究・開発

<歴史の大局観を磨く>
<大局を読む直観力を養う方法>
・筆者が直観力に拘わるのには理由がある。
 今の日本は国家としての大戦略を欠いている。大戦略を立案するには、20~30年後の世界の国際政治・軍事戦略環境についての冷徹な見通し・シナリオを持つ必要がある。

・歴史の大局が発生するためには、それに至る一連の流れが必ずある。その流れを左右するのが歴史の「ドライバー」という概念だ。

<歴史の大局を左右する「ドライバー」とは>
・英国の戦略思考家は、国際情勢を左右する主な要因を「ドライバー」と呼んで重視するが、森羅万象の中からこれを見付けるのは意外に難しい。

・「ドライバー」「エピソード」「トリビア」に分類する癖をつける

・歴史を学び、常に過去と照合する癖をつける

・知ったかぶりは厳禁、「知的正直さ」こそが武器になる

・では現在の筆者は一体何を「ドライバー」と見るのか。キーワードは、欧州ではロシアのクリミア侵攻、中東では米軍のイラク撤退、東アジアでは中国公船の尖閣領海侵入だ。ロシアの侵攻でポスト冷戦期は終わり、米軍の撤退でイラクとシリアが破綻国家化し、中国が東シナ海の現状を変えた。いずれも地域情勢を左右する力があると思うからだ。

・あるファンドマネージャーが書いたこんな記事を見付けた。「過去の値動きを現在と照合すれば、大局を見失わず冷静に判断できる」――。なるほど、市場と歴史は似ているようだが、1つ違いがある。市場の大局が読めれば大富豪だが、歴史の大局を読めても大儲けはできない。

<「力の真空」理論と北朝鮮情勢>
・「力の真空」状態では、基本的に、最強の部外者が最大の分け前を得る。
・最大強者が動かない場合には、弱い部外者でも分け前に与れることがある。
・部外者が介入しない場合には、破綻国家となるか、新たな独裁者が生まれる。

ということだろう。この仮説を北朝鮮に当てはめると何が見えるのか。北朝鮮の「終りの始まり」は「力の真空」を暗示する。中国にとって核武装する北朝鮮はもはや緩衝地帯ではなく、むしろお荷物になりつつある。

<中国人とアラブ人の5つの共通点>
・カイロ、バクダッド、北京に合計8年住んだ体験で申し上げれば、両者のメンタリティは驚くほど似通っている。典型的な共通点を5つ挙げよう。
1. 世界は自分を中心に回っていると考える
2. 自分の家族・部族以外の他人は信用しない
3. 誇り高く、面子が潰れることを何よりも恐れる
アラブ人を怒らせる最も簡単な方法は公の場で相手を非難し、その面子を潰すことだが、この手法は中国でも十分通用する。但し、効果は覿面なので、あまり多用しない方が良い。
4. 外国からの援助は「感謝すべきもの」ではなく、「させてやるもの」
流石に今このようなケースは少なくなったが、2000年当時の北京国際空港は日本の経済協力により建設されたものだった。当時中国政府は「日本政府の支援に感謝する」なる一文を空港内に掲げることに強く抵抗していた。恐らくアラブ諸国ではこうしたメンタリティが今も残っているのではなかろうか。
5. 都合が悪くなると、自分はさておき、他人の「陰謀」に責任を転嫁する
アラブ人は米国とシオニストの「陰謀論」が大好きだが、中国も同様。何かといえば、「歴史問題」と「抗日愛国戦争勝利」を持ちだすあたりは、アラブの独裁政権とあまり変わらない。

<中国人と中東人はここが違う>
・まとめてしまえば、中東のアラブ人とアジアの中国人の共通点は、①自己中心、②部外者不信、③面子重視、④援助不感謝、⑤陰謀論好きとなる。だが、筆者がアラブ人気質と信じたこれらの性格は、実は中国人だけでなく、開発途上国の国民が共通して持つ「劣等感」の裏返しなのだ。

<ユダヤ陰謀論に陥るな>
・その典型例が「ワシントンやニューヨークなどにいる在米『ユダヤ人』の陰謀」論ではなかろうか。これらの陰謀論が如何に間違っているかを具体例と共に説明しておこう。
 2016年、全米ユダヤ委員会(AJC)の年次世界大会にパネリストの1人として招待された。
 AJCの活動を知る日本人は少ない。ウィキペディアの日本語版もあまり詳しくない。AJCは1906年設立の国際ユダヤ弁護団体だ。その監視対象は米国内の反ユダヤ主義に止まらず、国内及び世界での様々な差別や人権侵害行為に広がる。

・大会に参加して強く感じたことがある。第1は、世界の現状と将来に対する彼らの強い危機感だ。

・第2は、国際ユダヤ運動の多様性である。

・第3は、彼らの圧倒的な知的力量だ。差別というキーワードで彼らは世界各国の情勢を詳細に分析、議論している。この膨大な知的活動がAJCを支えている。これだけでも、今も巷に流布する「ユダヤ陰謀論」の空虚さが判るだろう。

・AJ(アメリカン・ジュー)は何よりもユダヤ人の故郷イスラエルの利益を優先する。米国市民でありながら、イスラエルに冷淡なオバマ政権には批判的だ。

<ユダヤ・ロビーとイスラエル・ロビー>
・2000年に当選した息子ブッシュ大統領はこれを一変させた。ユダヤ票の獲得が目的ではない。彼は親イスラエル傾向の強い3000万票以上とも言われる「キリスト教右派」「福音派(エヴァンジェリカル)」の票が欲しかったのだ。
 この傾向はトランプ政権で一層顕著になった。トランプ氏を熱烈に支持した層は「白人、男性、ブルーカラー、低学歴」だといわれるが、そこには多くの福音派キリスト教徒が含まれる。彼らは聖書を厳密に解釈し、「神は、シオンの地をアブラハムの子孫に永久の所有として与えられた」という教義を字義通り信じている。こうしたキリスト教シオニストにとって、エルサレムがイスラエルの首都であるのは教理上、当然だ。トランプ氏が内政上必要とするのは、こうした福音派キリスト教徒の支持なのである。

<「核の脅威」の本質>
・そもそも北朝鮮を如何に見るべきか。あれは国家などではなく、従業員2500万人以上の巨大な超ファミリー・ブラック企業だと考えた方が良さそうだ。

<北朝鮮「売り家と唐様で書く三代目」>
・社員たちはなぜかくも従順なのか、それがブラック企業の恐ろしさだ。オーナー一族の独裁は強大だから、抵抗すれば直ちに捨てられる。再就職は不可能だから服従するしかない。

・だが、この三代目の弱点は、致命的に世間知らずなことだ。思い上がった三代目、唐様ばかりが得意のようで、創業者とは月とスッポンである。

<対北朝鮮「宥和政策」は機能するのか>
・歴史の教訓は無慈悲である。強硬策を決断した敵対者に宥和政策は通用しないのだ。

<周辺の大国に翻弄される「朝鮮」外交>
・朝鮮は、常に強国に朝貢することで周辺の大国間のパワーバランスを維持し、自国の独立を守ろうとした。

・中華は、朝貢を続ける朝鮮を保護しつつ、恭順を示さない朝鮮に対しては常に厳しい態度を取った。

・朝鮮への地政学的脅威は女真や日本など非漢族の異民族であり、中華は必ずしも脅威ではなかった。

・朝鮮内部ではエリート間権力闘争が長く続いたが、対外政策はそうした政策論争の重要な要素だった。

<半島「力の真空」ゲームを各国は如何に戦うか>
・トランプ政権以降、米中露間競争は新段階に入る。
・北朝鮮で「終わりの始まり」「力の真空」が生じる。
・「真空」では最強部外者が最大の分け前を得る。
・最強部外者が不介入なら、次なる部外者に益する。
・部外者が不介入なら、破綻国家か新独裁者が生まれる。

<ちょっと変わっているが、素晴らしい国>
<外務省を辞めて分かった格差の拡大>
・この「官民」でまず大きく違うのはカネの出入り。当然と言われようが、官僚は国民の納税「義務」に支えられているのに対し、民間には物品の消費「義務」などないから、人々は自力で収入(売上)を確保せねばならない。

・長々と昔話をした理由は他でもない。10年以上前に感じたこの「官民」「民民」の格差は、今や解消するどころか、逆に一層拡大しているように思えるからだ。



『米中戦争 そのとき日本は』
渡部悦和  講談社  2016/11/16



<ライバルを必ず潰してきた米国>
・日米関係について言えば、1970~90年代における米国の経済面での最大のライバルは日本であった。ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授が1979年に書いた『ジャパン・アズ・ナンバーワン』は有名だが、多くの米国人が日本に脅威を感じていた。とくに日本経済の黄金期であった1980年代の米国人は日本を最大の経済的脅威として認識し、日本に対してさまざまな戦いを仕掛けてきた。その典型例が日米半導体戦争である。半導体分野で首位から転落した米国のなりふり構わぬ日本叩きと熾烈な巻き返しは米国の真骨頂であった。こうした米国の仕掛けが成功するとともに、日本の自滅(バブルを発生させてしまった諸政策と、バブル崩壊後の不適切な対処)も重なり、バブルを崩壊後の失われた20年を経て日本は米国のはるか後方に置いて行かれたのである。そして今や中国が米国にとって最も手強い国家となっている。

<スコアカード・5つの提言>
・ランド研究所では「紛争開始時の米軍の損害を減少させ、勝利を確実にする」ための、5つの提言を行っている。
●バランス・オブ・パワーの変化は米国に不利なトレンドではあるが、戦争は北京にとっても大きなリスクであることを明確に認識させるべきである。
●兵器調達の優先順位においては、基地の抗堪性(余剰と残存性)、高烈度紛争に最適なスタンドオフ・システムで残存性の高い戦闘機及び爆撃機、潜水艦戦と対潜水艦戦、強力な宇宙・対宇宙能力を優先すべきである。
●米国の太平洋軍事作戦計画策定においては、アジアの戦略的縦深(地理的な縦深性、日本などの同盟国が米国の緩衝地帯を形成することに伴う縦深性)を活用する。米軍がこうむる当初の打撃を吸収し最終目標に向かっての反撃を可能にする(積極拒否戦略)を考慮すべきである。その結果、中国近傍の地域を静的に防護することは難しくなるであろう。
●米国の政治・軍事関係者は、太平洋の島嶼諸国及び南東アジア南部の諸国とも連携しなければならない。これは、米国により大きな戦略的縦深と、米軍により多くの選択肢を提供することになる。
●米国は戦略的安定・エスカレーション問題において、中国に関与する努力を続けなければならない。

<スコアカードに関する筆者の評価>
<日本の安全保障に与える影響>
●本報告書には日本防衛に影響を与える記述が随所にあり、その記述を詳細に分析する必要がある。例えば、「嘉手納基地に対する比較的少数の弾道ミサイル攻撃により、紛争初期は緊要な数日間基地が閉鎖、より集中的な攻撃の場合は数週間の閉鎖になる可能性がある。米国の対抗手段により、その脅威を減少させることができる」などといった記述である。
 とくに台湾危機シナリオは日本防衛に直結する。台湾の紛争が在日米軍基地への攻撃などの形が我が国に波及すれば、日本有事になる。南西諸島の防衛をいかにすべきか、在日米軍基地を含む日本の防衛態勢をいかにすべきかを真剣に考える契機とすべきである。台湾や南シナ海の危機は日本の危機でもあるのだ。

●ランドの研究グループは、作戦構想としてのエア・シー・バトルを採用しているために、「アジアの戦略的縦深を活用し、米軍がこうむる当初の打撃を吸収し最終目標に向かっての反撃を可能にする「積極拒否戦略」を考慮すべきである。中国近傍の地域を静的に防護することは難しくなるであろう」と提言しているが、この提言は重要だ。要するにこれは、「危機当初は米空軍・海軍が中国軍の打撃を避けるために後方に退避し、反撃を準備してから攻勢に出る」という意味である。米国の同盟国である紛争当事国は米軍の反撃が開始されるまで中国軍の攻撃に耐えなければいけない—―「積極拒否戦略」にはそのような意味が込められている。
●我が国においても、ランド研究所のシミュレーションを上回る分析が必要であり、詳細かつ妥当な分析に基づく防衛力整備、防衛諸計画策定がなされていくことを期待する。

<キル・チェインとC4ISR能力>
・弾道ミサイルなど、長射程兵器の「キル・チェイン」と、それを可能とする指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察{C4ISR}の能力はきわめて重要である。キル・チェインとは、ほぼリアルタイムで目標を発見、捕捉、追跡、ターゲティング(目標指示)、交戦(射撃)の効果を判定する—―という、一連のプロセスを指す。

<東日本大震災時に軍事偵察を活発化させた中国・ロシア>
・筆者が最も恐れる最悪のシナリオは、同時に生起する複合事態である。2011年に発生した東日本大震災は複数の事態が同時に生起する複合事態であった。当時の自衛隊は、地震、津波、原子力発電所事故に同時に対処する必要に迫られた上、周辺諸国の情報偵察活動も続けなければならなかった。多くの日本人は知らない事実だが、当時、自衛隊が大震災対処で忙殺されている間に、その自衛隊の警戒態勢を試すかのように周辺諸国(とくに中国とロシア)が軍事偵察を活性化させた。その姿勢には強い憤りを感じたものだ。しかし、それが我が国周辺の厳しい安全保障環境であると改めて実感したことを思い出す。
 筆者が恐れる「同時に生起する複合事態」の一例は2020年に開催される東京オリンピック関連である。この大会に備えてテロやサイバー攻撃への対策が議論されているが、大会直前や開催中の首都直下地震の発生及び対処は考えられているだろうか。
 筆者がさらに恐れる同時複合事態は、首都直下地震(または南海トラフ大震災)の発生に連動した日本各地でのテロ活動、もしくは、尖閣諸島など日本領土の一部占領である。

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