日本の河童は、丸い目をした毛のない猿のような薄気味悪い生き物で、手と足に水かきがついている。河童は河川や池の隠れ場所から跳び出し、獲物の尻の穴から血を吸うというぞっとするような習性をもつ。(1)



『ヴァンパイアの教科書』   
神話と伝説と物語
オーブリー・シャーマン 原書房  2020/2/22



<ヴァンパイア>
・ヴァンパイアは文明が誕生してまもないころから、文学、芸術、神話、宗教において、邪悪な闇の存在としてつねに人間のそばにいたのだ。だが、この150年ほどの間に、他のどの伝説上の存在にも増して、ヴァンパイアはロマンティックでエロティックな性格を付与されてきた。
 多くの人にとって、ヴァンパイアは愛と死、エロス(愛の神)とタナトス(死の神)という相反する性質を体現している。ヴァンパイアは人間の生き血を吸うことによって生き永らえると知っていてさえ、人はその行為ゆえに心を惹かれるのだ。
 人間はなぜヴァンパイアの伝説にこれほど心を惹かれるのか。おそらく、死という現象に対する人間の憧憬を、ヴァンパイアが映し出しているからではないだろうか。ヴァンパイアは、結局のところ、生と死の間に宙づりになっている。『吸血鬼ドラキュラ』の著者ブラム・ストーカーは、周知のとおり、ドラキュラを「アンデッド」(死者でも生者でもない存在)と表現した。

<ヴァンパイアの起源>
<長寿と繁栄>
・これまでのヴァンパイアおよびヴァンビリズム(「吸血衝動」「吸血鬼状態」または「吸血鬼信仰」など、ヴァンパイアに関することを広く包含する言葉)の研究はすべて、現在私たちが知っているような形のヴァンパイア――すなわち、ブラム・ストーカーが1897年に発表した画期的な小説『吸血鬼ドラキュラ』――の誕生に結びついている。この小説は賞賛されてしかるべき作品だが、亡霊――冥界からよみがえったもの――と呼ばれる存在の伝説をとりまく、はるかに豊かな歴史があることを忘れてはならない。

<夢魔  インキュバスとサキュバス>
・古い民間伝承に出てくる夢魔は男の悪魔で、眠っている女性に望まぬ性的関係を強要する。その女性版はサキュバスと呼ばれる。どちらもドイツのアルプ、ハンガリーのリデルクなど、ヨーロッパの初期のヴァンパイアと関連づけられることが多い。ブラジルにもボトという男の夢魔の伝説があり、女性を誘惑して川へ連れていく。当然の成り行きとして、女性が妊娠すると、夢魔はもっともらしく、都合のよい言い逃れをする。

<ヴァンパイアはどのようにして誕生するのか>
・この質問に対する最もわかりやすい答えは、他のヴァンパイアに咬まれることで仲間入りするというものだ。ヴァンパイアのタイプや、伝説や神話、文学、映画など描かれる媒体によって、無限のパターンがある。例えば、宇宙からやって来たヴァンパイアには、人間を咬むのではなく、口と口とを接触させることによってそのエネルギーを吸いとるものがいる。

<ヴァンパイアとペスト>
・腺ペストは1340年代にアジアで流行が始まり、1347年までに急激にヨーロッパに広がり、ヨーロッパの人口の3分の1を死滅させた、末期になると皮膚に斑点が浮き出すことから黒死病とも呼ばれ、民間伝承ではヴァンピリズム(「吸血衝動」「吸血鬼状態」または「吸血鬼信仰」など、ヴァンパイアに関することを広く包含する言葉)と関連づけられた。

<疫病>
・歴史を通して、人類はありとあらゆる災難に苦しめられてきた。家畜や農作物の損失、事故、制御不能の天候、原因不明の死、正気を失った行動、そして、さまざまな種類の疫病だ。このような災難に見舞われると、昔も今も非難と報復の矛先が必要になる。ペストが流行すると、病気の流行の原因を突きとめるために、超常的あるいは超自然的な行為を非難するなど、ヒステリックな糾弾がなされる。病気がヴァンピリズムを引き起こすと信じられていた時代もあった。

・中世のペスト流行期には、腺ペスト(リンパ腺がおかされるもの)であれ、敗血症型ペスト(血液がペスト菌に汚染されたもの)であれ、肺ペスト(ペスト菌が肺に侵入したもので、空気感染する)であれ、病気の発生源としてアンデッドも嫌疑をかけられた。このような状況下では、容疑者(例えば最初の感染者)を特定するために、死体に杭を打ちこむ、あるいは焼却するといった対策がとられた。死体を焼いた灰は川に投げこまれたり、お祓いをした地面に撒かれたりした。

<棺>
・私たちが知っている伝統的な棺は、1600年代に考案されたと言われている。最初はただの木の箱だったが、その後金銭的に余裕のある人々のために、徐々に装飾を施された棺へと変化し、19世紀後半にはそれが一般的になった。ブラム・ストーカーは、棺を生まれた故郷の土で満たし、ドラキュラの安息の場所、つまり寝床とした。後の作家もストーカーの考えに追随した。

<天候を変える>
・歴史を通して、多くの迷信や儀式の基盤は、天候の支配や予想にあった。ヴァンパイアに関しては、天候の支配は迷信とほとんど関連がない。実際のところ、おそらくストーカーは迷信を研究しており、それに基づいてドラキュラには天候を変える能力があるというコンセプトを生み出したのだろう。

<人狼伝説>
・人間が人狼に変身するというコンセプトが生まれた要因として、考えられるのは麦角菌だ。麦角菌は一般にライ麦、大麦、小麦などの穀物に寄生し、穀物を感染させる。中世ではこれらの穀物はパンの主要な原料だった。麦角に含まれる物質はけいれん、精神異常、幻覚を引き起こす。専門家の推測は、汚染されたパンを食べたことが、いわゆるオオカミ憑きや、セイラムの魔女裁判(17世紀にマサチューセッツ州セイラムで行われた一連の魔女裁判)のヒステリー状態の原因ではないかというものだ。

<ギリシアとスラヴのヴァンパイア>
<ギリシアのヴァンパイア>
・ギリシア神話に登場する神々のことはほとんどの人が知っているが、ヨーロッパの民間伝承に登場するヴァンパイアの祖先となる存在を生み出したのは、ギリシア神話の神々だということはあまり知られていない。ヴァンパイア愛好家にとっては驚くほどのことではないが、歴史上最古の精気を吸いとる悪魔のひとりを生み出したのは、他ならぬギリシア神話の最高神ゼウスであり、しかも、妻以外の女生との不倫の結果なのだ。

<ラミア>
・喜劇作家アリストパネスや哲学者アリストテレスの文献も含め、古代ギリシア人の著述や伝説には、全能の神ゼウスと、リビュアの女王ラミアとの不義の恋愛の物語が記されている。ラミアについては、海の神ポセイドンの娘、あるいはポセイドンの息子ベーロスの娘などさまざまな説がある。この神の浮気はゼウスの嫉妬深い妻ヘラの呪いを招いた。ヘラは不幸な娘ラミアが生んだゼウスの子供をすべてさらって殺し、子供を亡くしたラミアを追放した。
 悲嘆にくれつつも、自分を不幸のどん底に突き落とした神に復讐ができないラミアは、人間の母親から子供を盗んでその精気を吸いとることで、人間に対して復讐を遂げようとした。その後の伝説では、ラミア(Lamia)は上半身は人間の女性、下半身は蛇の姿になり、魔物の群れに身を投じた。この姿をした子供の血を吸う魔物はラミアー(Lamiae)と呼ばれた。ラミアーはその恐ろしい容姿を自在に変えて若者を誘惑し、破滅や死に追いやるとされている。

<古代の血を吸う者>
・ギリシア神話の信仰について論じるとき、古代ギリシア人にとって、こうした「伝説」はフィクションでもファンタジーでもないということを覚えておくべきだ。私たち現代人は科学や教育、それに健全な懐疑論の恩恵を受けている。その現代人が自分で選択した信仰や神を信じているのと同じくらい、ギリシア人は、古代エジプト人と同様に、神の存在と神が超自然的な力によって人類を創造したことを信じていた。

<エンプサーとモルモー>
・ギリシア神話には、現在では忘れられたマイナーな神も登場するが、そのなかにエンプサーとモルモーがいる。エンプーサ(これはおそらく「1本足の」の意)は姿を変えることができ、特に若い男性の血を飲む。つまり、サキュバスの一種だ。初期の神話では、エンプーサは冥界の女神ヘカテの娘とされていたが、のちには不用心な旅人を餌食にする一般的な怪物として描かれている。
 モルモーも同様の起源をもつが、悪い子供にかみつくとされたため、幼児向けのギリシア神話ではそういう役どころでしばしば登場する。

<ヴリコラカス>
・ギリシアにおいて、ヴァンパイアの特徴を持つ最古の魔物は、神から生まれた存在が織りなす超自然的な世界と直接的に結びついているが、ギリシアがキリスト教に改宗してまもなく、魔物と最近死んだ人間はしばしば同じものを指していることが明らかになった。現代の言葉では、この世に戻ってきた死者を亡霊と呼ぶが、ギリシアではヴリコラカスと呼ばれている。ギリシアでも地域によってつづりは異なるが、一般的に、ヴリコラカスは生きている人間に不幸をもたらすためによみがえり、アンデッドの魔物のなかでも最もたちが悪いと考えられている。

<スラヴのヴァンパイア>
・初期のスラヴ人はあまり歴史を書き残していないが、民間伝承の主要な担い手であり、その民間伝承が最終的には東ヨーロッパへと伝わって、最悪の悪夢を生みだした。スラヴ系民族は、現在ではスロバキア、チェコ共和国、ベラルーシ、ロシア、ウクライナ、ボスニア、ブルガリア、クロアチア、モンテネグロ、セルビアと呼ばれている地域に居住していた。これらの地域から、ヴァンパイア伝説が拡散されていったと考えられる。
 東ヨーロッパのヴァンパイア伝説の特異な点は、スラヴ系のヴァンパイアは、コウモリだけでなくチョウにも変身できるということだ。

<ウピルとネラプシ>
・スロバキアとチェコの農村部のヴァンパイア伝説の主力はウピルとネラプシで、どちらも最近死んだ人間がよみがえった腐敗した死体を指す。ウピルは特に厄介だと思われている。

<ルーマニアとドイツのヴァンパイア>
<ルーマニアのヴァンパイア>
・スラヴ諸国の民間伝承は、紀元後数世紀に東ヨーロッパの社会が被ったほぼすべての自然災害の原因としてヴァンパイアを登場させたと考えられているが、スラヴ系民族もまた、非スラヴ系近隣諸国の伝説に大きな影響を与えた。その中で最もよく知られているのは、言うまでもなくルーマニアで、ヨーロッパのヴァンピリズム伝承と密接に結びついている。

<「ドラキュラ」の起源>
・ドラゴン騎士団は15世紀初頭に、ハンガリー王がイスラム教徒のトルコ軍と戦うために設立した騎士団だ。ヴラド2世は1431年にドラゴン騎士団に加わり、その勇敢さからドラクル(ドラゴンの意)の名を与えられた。彼は息子のヴラド3世、すなわちヴラド串刺し公にその名を譲った。

<ヴラド・ツェペシェ>
・ルーマニアで最も有名な人物と言えば、ワラキア公国の君主ヴラド・ツェペシェ(1431~1476年)で、ヴラド3世またはヴラド・ドラキュラとも呼ばれていた。また、捕らえた敵の体を生きたまま杭で突き刺した行為から、年代記編者からはヴラド串差し公とも呼ばれている。

・1453年のコンスタンチノーブルの陥落ののち、バルカン半島諸国にトルコの影響が強まってきた時代にヴラドは君主の座に就いた。1462年にヴラドはトルコ軍と数回戦い、夜戦で決定的な勝利を収めた(この戦いでは1万5000人のトルコ人が殺されたと言われている)。
 1897年にブラム・ストーカーが小説の主人公である吸血鬼にその名前ドラキュラを使うと決めたことで、ヴラドは世界的な有名人になった。

<ストリゴイ>
・スラヴ系ヴァンパイア伝説の影響はあったが、ルーマニアのヴァンパイアの民間伝承は、その名前と行動では独自性を維持していた。ルーマニアのトランシルヴァニア公国では、ヴァンパイアは2種類存在する。生きているヴァンパイアはストリゴイ・ヴュー、死んだヴァンパイアはストリゴイ・モルトと、見分けがつかないけれども、区別して呼ばれる。ストリゴイ・モルトは墓を抜け出し、動物の姿になって生きた人間につきまとい、悩ませる。

<アルバニアのストリガ>
・ルーマニアのヴァンパイア伝説の多くが、スラヴ民族の民間伝承からアイデアを得ているのと同様に、南東ヨーロッパのアルバニアもまた、アンデッドに関して同様のアプローチを取っている。ルーマニアと同様に、アルバニアのストリガも魔女に似た特徴をもっている。「ストリガ」という言葉は、ラテン語の「甲高い声で鳴くフクロウ」を表すstrixに由来し、夜に飛ぶ悪魔のような生き物を表している。ストリガは、昼間は普通にふるまっているが、夜になると空を飛ぶハエやガのような昆虫に変身し、犠牲者を襲ってその血を吸う。

<ドイツのヴァンパイア>
・10世紀にスラヴ系民族が東ドイツへ侵攻したため、ドイツのヴァンパイアは東ヨーロッパのスラヴ民族のヴァンパイアから多大な影響を受けている。北ドイツで最も有名なヴァンパイアはナハツェーラーである。

・ナハツェーラーは自殺者や突然に変死を遂げた人間がよみがえったものと信じられているが、さらに珍しい原因として、最近亡くなった人間で、屍衣に名前が付いたまま埋葬されるとヴァンパイアになるというものもある。南ドイツのナハツェーラーによく似たヴァンパイアはブルートザオガーと呼ばれるが、これはそのまま、血を吸う者というおぞましい意味だ。

<アルプ>
・ドイツの民間伝承に出てくる最も狡猾で一貫性のない夜の魔物のひとつがアルフだ。アルプの悪霊としての特徴は、姿を現すドイツの地域によって異なる。ある地域では、アルフは魔法使いで、悪さを働くために鳥やネコの姿に変身できる。別の地域では、アルプは人間の姿をした性犯罪者で、ベッドで眠っている女性や少女を襲う。アルプはまた、魔術と密接に結びついており、夜にはネコやネズミの姿になって、魔法使いの命令を実行すると言われている。アルプのよく知られた能力のひとつは、眠っている犠牲者の思考に入っていって、恐ろしい悪夢を見せるというものだ。そのせいで相手はしばしばひきつけやヒステリーの発作を起こす。

<シュラトル>
・ドイツのアルフに似た魔物としては、シュラトルがいる。自分の死体から葬式の埋葬布を食いちぎり、墓からよみがえる凶暴なヴァンパイアだ。シュラトルはまず自分の家族と家畜を襲い、その後共同体全体を襲うが、しばしば犠牲者を狂気に追いやる。東ヨーロッパではシュラトルは病気のまん延の原因であるとする点も、ヴァンパイアに似ている。

<ウッドワイフ>
・ドイツの多くの歴史的伝説では、ウッドワイフは一般に森に住む動物や植物の保護者と考えられ、温和な妖精という性格をもち、ゆったりとしたローブを優雅にまとっていると言われている。だが、身の毛もよだつ記録によると、無謀にも森の奥深く入ってきた狩人や木こりを襲って喉を引き裂くこともあったようだ。

<イギリスのヴァンパイア>
・現代のイギリスで取り上げられるヴァンピリズムの物語といえば、よく知られた東ヨーロッパの血を吸う者の話が多いが、11世紀から12世紀にかけてのイギリス諸島では、独自のおぞましい伝承がいくつも生み出された。

<ウェールズ地方のハグ>
・ウェールズ地方の民間伝承に登場するハグは女の悪魔で、若い娘の姿をしているときもあれば、熟年の婦人や老婆の姿で現れるときもある。最も恐れられているのは老婆の姿で、それは死や破滅が差し迫っていることを示しているからだ。

<グラッハ・ア・フリビン>
・グラッハ・ア・フリビンも恐ろしいほど年をとった女性で、十字路で旅人を脅しているところを見かけたり、小川や池のほとりでちらりと姿を見たりすることがある。グラッハ・ア・フリビンの泣きさけぶ声は、聞いた者の死が差し迫っている合図だと信じられている。

<シーに注意>
・デアルグ・デュは、美しい妖精リャナン・シーと関連があるとも言われている。リャナン・シーは芸術家にとってミューズの役割を果たす、しかしながら、アイルランドの詩人W・B・イェイツは、著書『神話』で、こうした魔物は吸血鬼に類するもので、本質的に邪悪なものとみなしている。

<アバータハ>
・アイルランドの初期の伝説に、アバータハの物語がある。これはロンドンでリーのエリガル教区に住む小びとだ。アバータハはすご腕の魔術師だったが、暴君でもあり、田舎の人々から恐れられていた。近隣の族長フィン・マックールがこの小びとを殺したが、アバータハは死体からよみがえると、国中を歩きまわり、犠牲者の血を吸った。

<イングランドのヴァンパイア>
・イングランド北部のベリックでは中世から、おそらくペストで死んだ地元の男の魂が町をうろつき、病気と恐怖を拡散したという話が伝わっている。その男は幽霊の猟犬の群を伴っており、その犬たちの悲しげな吠え声で、男がやって来ることがわかった。男は聖別されていない土地に埋められていたが、町の住民はそこから死体を掘り起こし、死体を切り刻んで燃やした。

<スコットランドのヴァンパイア>
・スコットランドは荒野と険しい山々の国で、風のない湖の陰気な湖面に城が影を映しているが、実にさまざまな独自のヴァンパイアの話が多数残っている。スコットランドのグラムス城は、イギリスのなかでも最も亡霊がよく出る城と呼ばれることもあり、その城主には恐ろしい秘密があるという噂がある。それは、家族にヴァンパイアの子供が生まれたというものだ。子供は城のなかの隠し部屋に幽閉されていて、部外者で姿を見た者はいない。ヴァンパイアの子供は、代々の城主に生まれているとも言われる。

<スコットランドのその他の血を吸う者>
・時代が下った1920年代のブレア・アトールでは、ふたりの密猟者が夜の猟を終えて休んでいると、謎の化け物に襲われ、ふたりとも血を吸われたという記録が残っている。彼らは何とか撃退したが、この事件は、スコットランドのハイランド地方では、旅人は暗くなってから外を出歩くのは避けた方がいいという警告として使われてきた。

<極東とインドのヴァンパイア>
・中国、日本、インドの神話からは、西ヨーロッパや南北アメリカ大陸に存在するヴァンパイア伝説に匹敵する数の物語が生まれている。これらのヴァンパイアは欧米人になじみのあるものとはまったく異なるが、それでも同じ民間伝承の伝統に属するものであるのは間違いない。

<中国のヴァンパイア>
・欧米の文化、文学、映画をとおして愛したり忌み嫌ったりするようになったヴァンパイアは、通常ヨーロッパで語り伝えられてきたものだが、そのパワーや恐ろしさ、魅力には国境がない。中国のキョンシー(チャンスー)は、「跳ねる幽霊」とも呼ばれ、溺死、絞首、自殺などで命を落とした死体がよみがえったものだ。

<日本におけるヴァンパイア>
・日本の河童は、丸い目をした毛のない猿のような薄気味悪い生き物で、手と足に水かきがついている。河童は河川や池の隠れ場所から跳び出し、獲物の尻の穴から血を吸うというぞっとするような習性をもつ。
マレーシアにも、河童に似た血を吸う悪党が存在する。それは出産時に死んだ母親と死産した赤ん坊の体内から飛び出したもので、母親はランスイル、哀れな子供はポンティアナックとなってよみがえる。生きている人間をねたんで復讐しようとするが、そのやり方は、犠牲者の腹を切り裂いて血を吸うという、胸が悪くなるようなものだ。

<その他の日本のヴァンパイア>
◆日本人のなかには餓鬼と呼ばれる妖怪に悩まされている人がいるかもしれない。これは血を求めて泣きわめく青白い死体で、動物や人間に姿を変えることもできる。
◆美しい女性が悪魔に取りつかれると、般若に変身する。この恐ろしい魔物は血を吸い、子供を食べる。
◆火車は墓場の死体を貪り、血を扱う妖怪だ。
◆女性は怒ってばかりいると、死後ランクが下がり、夜叉という吸血コウモリに生まれ変わる。

<インドの影響>
・多くのヴァンパイア研究家は、ヴァンパイア神話のいくつかの起源はインドにあるのではないかと考えている。数千年の間に、インドの文化と宗教からはさまざまな種類の神、悪魔、迷信、伝説が生み出された。そして、古代インドのアンデッドの多くは、現代の伝承のなかにいまだに生きつづけている。そして、こうした伝説的物語や、そのなかにしばしば登場する血に飢えた悪魔的存在は、隊商、遠征、移民によって、何世紀も前に他の民間伝承や宗教と混ざり合い、進化したのではないかと考えられる。



『妖精の教科書』
神話と伝説と物語
スカイ・アレクサンダー    原書房  2020/1/31



<妖精はいたずら好き>
・妖精はいたずら好きで気まぐれで裏切りも得意、人を助けることもあれば死に誘うこともある。ルールに縛られない自由さと危うさは、太古から人を惹きつけてきた。世界各国に存在するさまざまな個性をもつ妖精を紹介、妖精の目撃談も収録。

<元素>
・魔術師が元素をいうとき、学校で習う周期表を指しているのではない。それは自然界その他を作る空気、土、水、火の4大元素を指しているのだ。古来、神話や伝説には、空を飛び、土に潜み、深海を泳ぐ超自然的な存在が登場する。だが、こうした不思議な生きものは自分たちの居場所に住すんでいるだけではない。それぞれの領域の守護者となったり、大使となったりするのだ。彼らを特定の存在というより活力だと説明する者もいる。また、神話によってさまざまな名前で呼ばれる。東洋の神秘主義では、デーヴァと呼ばれる神(天使や下級神と似ている)が自然界の妖精を指揮している。妖精界で最もよく知られる3つの元素は、シルフ、スプライト、そして水のニンフである。サラマンダーと呼ばれる火の精もときおり登場するが、それほど知られていない。

<シルフ――空気の精>
・ティンカ・ベルをはじめ、空を飛ぶ妖精はこのカテゴリーに分類される。だがシルフは、現代の映画や絵本に描かれているような、繊細な羽を生やした魅惑的な存在というだけではない。空気や空に対して、さまざまなことができるのだ。空を飛ぶ能力のほかに、シルフは風を操り、大気の質に影響を及ぼし、人間の呼吸を助ける。今日では、化学物質による飛行機雲をきれいにするのに忙しいという説もある。また、鳥や空を飛ぶ虫を助けたりもする。

<フィンドホーンの土の精>
・1960年代初頭、アイリーンとピーター・キャディ夫妻、友人のドロシー・マクリーンが、フィンドホーンと呼ばれるスコットランドの荒涼とした土地に、霊的なコミュニティを創設した。その土地はほとんど砂地で、天候も荒れていたが、フィンドホーンは熱帯の花や19キロほどもあるキャベツが育つ見事な庭園で有名になった。なぜこんなことが起こったのだろう?ドロシーによれば、植物の生育を司る元素――彼女がいうには“裏で働いている、創造的知性の生きた力”――がフィンドホーンの創設者を導いて、素晴らしい庭園を造り、維持させたという。

<妖精はどこに住んでいる?>
・目には見なくても、妖精はすぐそばに住んでいる。現に、今このときにも、あなたの隣に座っているかもしれないし、あなたの庭で踊っているかもしれない。ほとんどの人が妖精を見たことがないのは、彼らが平行世界に住んでいるからだ。そこは私たちの世界と並んで存在しているが、異なる周波数で機能しているのだ。たとえば、TVやラジオのチャンネルと比較すれば理解しやすいだろう。1つのチャンネルに合わせているとき、ほかのチャンネルは視聴できないが、それは確かに存在している。“妖精の世界”にも、同じことがいえるのである。

<降格された神々>
・多くの民間伝承で、妖精は古代の神や女神の子孫だといわれている。何千年もの間、こうした神々は天と地、そして、そこに住むものを支配していた。彼らは昼と夜、陸と海、季節、植物の生育、野生の動物や家畜――つまり、あらゆるものを支配していた。すべてを網羅するその力は、まさに彼らを畏れるべき存在にし、世界じゅうのほぼすべての文化で、人々は支配者としての神を敬った。
 だがキリスト教の隆盛とともに、こうした古代の神々は衰退していった。教会は古い信仰を禁ずるだけでなく、こうした神々にすがる人々を迫害したのだ。伝説によれば、人間が古代の神や女神をあがめたり、敬ったりするのをやめたとき、彼らの力が衰えはじめたのだという。結果として、神々の一部は伝説上の存在に成り下がった――妖精もその1つである。こうした成り行きを妖精は喜ばなかった。そのため、人間にいたずらをするのかもしれない。
 ほかのあらゆる世界と同じく、妖精界にも社会構造や階級がある。基本的に、妖精は次の2つのカテゴリーに分けられる。
・自然界を守り、導く妖精
・人間の運命や宿命を操る妖精

<運命の妖精>
・自然の精霊についてはすでに少し触れているので、ここでは運命を司る妖精を見てみよう。これらの妖精は、赤ん坊が生まれた直後に現れ、誕生を祝い、赤ん坊の運命に影響を及ぼすことが多い。勇気や美しさ、賢さといった贈り物を持ってくるのが常である。これらの誕生を祝う精霊は、ケルト、スラヴ、フランスの民間伝承に登場する。ギリシアのモイラ(運命の3女神)も、このカテゴリーに入る。アルバニアのファティも同様だが、彼らは通常、赤ん坊が生まれてから3日後まで待ち、蝶の背中に乗ってやってくる。セルビアでは、ウースードと呼ばれる妖精が誕生から7日目にやってくるが、母親だけにしか姿は見えない。
 妖精たちの気前のよさに、お返しをするのはいいことだ。さもないと、怒りを買うことがあるかもしれないし、妖精を侮辱するのは決していいことではない!

・ほとんどの国で、人間とも、上位の神々とも違う種がいることが広く信じられている。こうした生きものは洞穴や深海といった彼らだけの領域に住んでいる。そして一般には、力や知恵で人間を上回り、人間と同じく死ぬ運命は避けられないが、人間よりも長く生きる。

<妖精の性格>
<いい妖精、悪い妖精、美しい妖精、そして徹底的に醜い妖精>
<ピクシー>
・初期の伝説では、ピクシーは小さい、子供のような妖精で、ブリテン島やブルターニュ周辺のストーンサークルの下や妖精の丘に住んでいるといわれていた。しかし、スウェーデンではこの妖精をピスケと呼んでいるため、スウェーデンに端を発しているという説もある。ピクシーはまた、ピクトともつながっている。古代アイルランドやスコットランドに住んでいた、小さくて色の黒い神秘的な種族である。たいていは、ピクシーは妖精界での“お人よし”と考えられている。

・現代のピクシーは、概して尖った耳を持ち、先の尖った高い帽子を含め緑色の服に身を包んでいる。

<エルフ>
・今日では“エルフ”といえばサンタクロースの小さな助手のイメージが浮かぶが、初期の民間伝承では、ハンサムで人間と同じくらいの大きさの生きものとされている。彼らはチュートン人の伝説に登場し、職人、射手、治療師として大きな力を発揮する。スカンジナヴィア神話では、エルフは3つのタイプに分かれる。光のエルフは天上界で神や女神と暮らしている。闇のエルフは下界に住んでいる。そして黒のエルフは魅力的で、人間と同じくらいの大きさで、2つの世界の間に暮している。ノルウェーの民間伝承によれば、自分に価値があることを証明できれば、人間は死後、エルフのレベルに進むことができるという。

・伝承では、エルフは人間をさほど好きではなく、助けることもあるが害を与えることもある。とはいえ、エルフは人間と結婚することでも知られている。ドイツのニーベルンゲンが没落した後の最後の生き残りであるハゲネの母親も、エルフと結婚した1人だ。物語では、この精霊は“エルフの矢”といわれる毒矢で人間を攻撃する。

<アイスランドのエルフ>
・アイスランドの人々は、エルフと特別な関係を結んでいる。おそらく、ほかのどの文化よりも緊密な関係といえるだろう。アイスランド政府観光局の報告では、国民の80パーセントがエルフの存在を信じているという。アイスランドには、エルフを人間の侵害から守る政策まである。住民の25パーセントが妖精を見たことがあるという港町ハフナフィヨルズゥルでは、エルフのために土地が保護され、指定された地区に建物を建てることができない。エルフの聖地に建物を建て、彼らを怒らせたのではないかと恐れる人々は、エルフ・ウィスパラーを呼び、エルフに会ってどうすれば問題が解決できるかを探るのだ。

<ドワーフ>
・『白雪姫』の7人の小人のことはよく知っているだろう。ディズニーのアニメ映画では、このおかしな小人たちには、ごきげん、おこりんぼ、ねぼすけなど、人間の感情を表す名前がついている。『白雪姫』の小人のように、妖精の伝承に出てくるドワーフはたいていひげを生やしていて、小さな体なのに驚くほど力が強い。もじゃもじゃのひげを生やしているが、年齢は7歳にも満たない――彼らはすぐに成長するのだ!
 ドワーフと後述のトロールは、ノルウェーやドイツの神話の中で、数多くの共通点を持っている――場合によっては、この名前は互換的に使われる。どちらの種族も、丘のふもとに隠れた巨大な建物の地下に住んでいる。またどちらも金属細工が得意で、莫大な富を蓄えているといわれる。初期の民間伝承では、ドワーフは死者と結びつけられ、墓地の周りにたむろするとされている。古代ノルウェーの叙事詩『古エッダ』では、ドワーフの王は「炎の血と、死者の手足から作られた」という。

<トロール>
・伝説や民間伝承の中で、トロールはさまざまな評価がされており、そのイメージは数百年の間に悪くなっている。彼らは愛想がよく、人間を助けることもあるという――彼らは盗人で、財産だけでなく女子供も奪うものだと。もちろん、彼らには魔法の力があり、それには姿を消したり、別の姿に変身したりする能力も含まれている。
 一般的に、この生きものは醜く、頭が鈍く、猫背である。

・トロールは、ほかの妖精と同じく音楽や踊りが大好きで、自分たちの国に音楽を持ち込むために長い距離を旅することで知られている。もちろん、楽曲をダウンロードというわけにはいかないので、彼らは人間の音楽家をさらってきては自分たちを楽しませ、囚われ人にする。一部の物語では、子供を誘拐する山の民として、トロールにさらに暗い光を当てている。

・現代文学での悪い評判とは裏腹に、昔話のトロールはしばしば善良な者として描かれている。この夜行性の生きものは地下の穴、洞窟に住み、そこで莫大な財宝を守っているという。彼らはハーブや金属の扱いに特に長けており、時には進んで人間を助けることもある。多くの妖精にまつわる民話と同様、彼らは変身やまじないが得意で、出会った人間を惑わすことができる。

<ハッグ>
・この妖精は老婆に似ていて、精霊だけでなく、不思議な力を持つ人間の老婦人もハッグと呼ばれることが多い。民間伝承では、ハッグは悪夢の原因であり、眠っている男性の胸の上に座って、金縛りにするという説もある。別の話では、ハッグは若い美女に変身して、夜、サキュバスのように男性のベッドに忍び込み、眠っている人間と交わるともいわれる。
 ハッグは多くの文化における伝説に登場する。アイルランドのバンシー、東欧のバーバ・ヤガー、日本の鬼婆などだ。おそらく、英語圏で最もよく知られているハッグは、シェイクスピアの『マクベス』に登場する3人の魔女だろう。

・魔女と同じく、ハッグも何世紀もの間、悪魔その他の邪悪な力の仲間で、醜く邪悪な生きものとして描かれてきた。ヨーロッパや植民地時代のアメリカで、15世紀から18世紀にかけて無数の女性や子供が殺されたのは、こうした誤解がもととなっているのかもしれない。

<レプラコーン>
・伝説によれば、レプラコーンに出会うと、金の入った壺をもらえるという――けれども、レプラコーンをだまして宝物を奪おうと思うなら、考え直したほうがいい。無邪気そうに見えるが、彼らは非常に頭がよく、やすやすと人間に黄金を奪われたりはしない。民間伝承では、このアイルランドのいたずら者は、たいてい身長120センチほどの小柄な老人の姿で、時には風変わりな帽子の緑の上着を着て、ブライアーのパイプをふかし、棍棒を持っている。

・レプラコーンはトゥアハ・デ・ダナーン(アイルランド民族の祖先である神)の子孫だといわれているが、ポップカルチャーでは、セント・パトリックの日に襟に四つ葉のクローバーを飾り、緑のビールを飲む、ただの陽気な小鬼になっている。

<ゴブリン>
・醜くて意地悪なこの小さい生きものは集団で旅をし、大惨事を引き起こす――妖精界では、人間のギャングに相当する存在だ。一説によれば、この貪欲な妖精はお金やごちそうが大好きで、ほしいものを手に入れるためには策略その他の手を使うのをためらわない。

・一部の民話では、彼らはあまり頭のよくない、意地悪な妖精で、緑がかった肌に毛むくじゃらの体、赤い目を持つと描写されている。

<シー>
・アイルランドの神話によれば、シーは古代の有力な妖精集団で、前からアイルランドとスコットランドの一部を支配していたという。“丘の人”を意味するシーは、妖精の丘や妖精の輪の下に住んでいる。アオス・シーや、その他の名前でも知られ、トゥアハ・デ・ダナーンの子孫という可能性もある。
 外見は人間に似ているが、シーは通常、並外れて美しく、人間よりもはるかに大きな力を持っているという。たとえば、彼らはものすごいスピードで空を飛び、違う生きものに変身できる。伝説によれば、この妖精はほぼ不死だともいわれる。ケルト人の土地にキリスト教が持ち込まれたあとも、アイルランドやスコットランドの人々は、この超自然な存在を高く評価しつづけている。

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